補助金の加点対象にもなる公的施策のご紹介

毎年度、補助金は予算が確定した4月以降に順次公募が開始されるため、年度末が近づくにつれて公募中の補助金は減っていきます。
このような時は、「なにも補助金がない」と嘆くのではなく、来年度に計画的に補助金を活用できるよう、事前準備を進めていただくことをお勧めします。
それは例えば自社の事業課題を改めて見直すのであったり、メーカーから自社の課題解決に適切な設備の案内を受けることであったり、補助金申請において加点となるものを確認し事前にその条件を満たしておくことなどです。
本記事では、どのようなことをあらかじめ行っておくと補助金で加点を得られるのか、補助金加点項目となりやすい公的施策のご紹介をいたします。

補助金利用において加点獲得の重要性

出典:ものづくり補助金データポータル

上図はものづくり補助金の事務局ホームページで公開されている、加点項目の数と採択率の関係図です。加点項目が1つもない事業者の採択率が33.4%に対し、加点項目が2個以上の事業者の採択率は50%を超えています。
また、加点項目を1つもとっていない事業者よりも、1または2個という事業者の方の割合が高いことがわかります。自社が高確率で採択されるために、ただ申請するのではなく加点を着実にとって申請している企業の方が多いということがわかります。
3個獲得している事業者の割合はぐっと減っており、かつ採択率も60%近くまで上がることから、できれば狙いたいのはこの位置となります。
補助金はただ素晴らしい事業計画書を出せばよいわけではなく、他社との相対評価となります。他社よりも良い評価を得るために、加点獲得は非常に有効です。

加点項目の傾向

加点項目は、「事業者がその条件を満たしていれば、補助金の審査において優位となる(加点を得られる)」というだけあって、国がその時特に重視している政策と関連したものが設定されています。
そのため、前年度では加点対象となっていたものが、翌年も加点対象となるとは限りません。
とはいえ一度加点対象となると数年は継続して対象となることが多いですし、何より国が強化したいことが加点対象となっているため、事業者として対応しておいて損となるものではありません。
補助金を抜きにしても、自社にとって良いと思うものについては、積極的に対応していくことをお勧めします。

下記は、2024年度の中小企業庁の補助金で加点として設定されている項目です。
来年度になって「申請しよう」と思ってから準備をしても間に合わないものも多く存在します(中には半年ほどかかるものもあります)ので、今着手しておくに越したことはありません。
項目によっては特定の申請類型のみで加点となるものや、もしくは特定の申請類型では申請要件(必須項目)となっているものもありますので、ご留意ください。

2024年度ものづくり補助金の加点項目

  1. 有効な期間の経営革新計画の承認を取得した事業者
  2. 創業・第二創業後間もない事業者(5年以内)
  3. パートナーシップ構築宣言を公表している事業者
  4. 再生事業者
  5. 応募締切日時点でDX認定制度により認定された事業者
  6. 申請時点においてサイバーセキュリティお助け隊サービスを利用している事業者
  7. 令和4年度および令和5年度において健康経営優良法人に認定された事業者
  8. 技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者
  9. J-Startup、J-Startup地域版に認定された事業者
  10. 取引先の事業者がパートナーシップ構築宣言をしており、かつ宣言文中に項目1(個別項目d. グリーン化の取組)について記載がある事業者
  11. 応募締切日前日時点で「新規輸出1万者支援プログラム」ポータルサイトにおいて登録が完了している事業者
  12. J-クレジット制度に参加し、自社での温室効果ガス排出量の削減取組についてクレジット認証を受けている事業者
  13. GXリーグに参画している事業者
  14. カーボンフットプリント(CFP)を算定している事業者
  15. 有効な期間の事業継続力強化計画の認定を取得した事業者
  16. 賃上げ加点
  17. 被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合
  18. 「えるぼし認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  19. 「くるみん認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「両立支援のひろば」に次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者

2024年度IT導入補助金の加点項目

  1. 有効期間の地域経済牽引事業計画の承認を取得している事業者
  2. 交付申請時点で地域未来牽引企業に選定されており、地域未来牽引企業としての「目標」を経済産業省に提出している事業者
  3. 賃上げ加点
  4. 令和5年度に「健康経営優良法人2024」に認定された事業者
  5. 「地域 DX 促進活動支援事業」における支援コミュニティ・コンソーシアムから支援を受けた事業者
  6. 介護保険法に基づくサービスを提供する事業所で、介護職員等特定処遇改善加算を取得しているものを運営している法人
  7. 「えるぼし認定」を受けている事業者
  8. 「くるみん認定」を受けている事業者
  9. 「みらデジ経営チェック」を交付申請前に行っている事業者
  10. 「SECURITY ACTION」の「★★ 二つ星」の宣言を行っている事業者

2024年度事業再構築補助金の加点項目

  1. 応募申請時において、コロナ借換保証等で既往債務を借り換えている事業者
  2. パートナーシップ構築宣言を公表している事業者
  3. 再生事業者
  4. 令和5年度に健康経営優良法人に認定されている事業者
  5. 大幅賃上げ
  6. 「えるぼし認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  7. 「くるみん認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「両立支援のひろば」に次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  8. 技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者
  9. 地域未来牽引企業の認定企業 ※厳密には加点ではなく「審査で考慮」
  10. 地域経済牽引事業計画の認定企業 ※厳密には加点ではなく「審査で考慮」
  11. アトツギ甲子園出場者 ※厳密には加点ではなく「審査で考慮」

2024年度小規模事業者持続化補助金の加点項目

  1. 賃金引上げ枠に申請する事業者のうち、赤字である事業者
  2. ウクライナ情勢や原油価格、LP ガス価格等の高騰による影響を受けている事業者
  3. 東京電力福島第一原子力発電所の影響を受け、引き続き厳しい事業環境下にある事業者
  4. 「えるぼし認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  5. 「くるみん認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「両立支援のひろば」に次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  6. 賃上げ加点
  7. 地域資源等を活用し、良いモノ・サービスを高く提供し、付加価値向上を図るため、地域外への販売や新規事業の立ち上げを行う計画の事業者
  8. 地域の課題解決や暮らしの実需に応えるサービスを提供する小規模事業者による、地域内の需要喚起を目的とした取組等を行う計画の事業者
  9. 各受付締切回の基準日までに「経営力向上計画」の認定を受けている事業者
  10. 各受付締切回の基準日時点の代表者の年齢が満60歳以上の事業者で、かつ、後継者候補が補助事業を中心になって行う事業者
  11. 「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に定める過疎地域に所在し、地域経済の持続的発展につながる取組を行う事業者

2024年度事業承継・引継ぎ補助金の加点項目

  1. 「中小企業の会計に関する基本要領」又は「中小企業の会計に関する指針」の適用を受けている事業者
  2. 交付申請時に有効な期間における「経営力向上計画」の認定を受けている事業者
  3. 交付申請時に有効な期間における「経営革新計画」の承認を受けている事業者
  4. 交付申請時に有効な期間における「先端設備等導入計画」の認定を受けている事業者
  5. 交付申請時点で「地域未来牽引企業」である事業者
  6. 交付申請時点で中小企業基本法等の小規模企業者である事業者
  7. 交付申請時点で「(連携)事業継続力強化計画」の認定を受けている事業者
  8. 「えるぼし認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「女性の活躍推進企業データベース」に女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  9. 「くるみん認定」を受けている事業者、もしくは従業員100人以下の事業者で「両立支援のひろば」に次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者
  10. 交付申請時点で「健康経営優良法人」である事業者
  11. 交付申請時点で「サイバーセキュリティお助け隊サービス」を利用する中小企業等
  12. 賃上げ加点
  13. 経営資源引継ぎ後にPMI(Post Merger Integration)を検討している事業者

2024年度大規模投資成長補助金の加点項目

  1. 「地域未来牽引企業」である事業者
  2. パートナーシップ構築宣言を公表している事業者
  3. 「金融機関による確認書」の提出・確認書を発行した金融機関の担当者等がプレゼンテーション審査に同席した場合

加点項目となる代表的な公的施策

見ていただいた通り、共通した項目が多いことがわかります。以下、代表的な加点項目について簡単にご説明いたします。

経営革新計画

自社が、新事業活動※を通してありたい姿の実現を目指すための計画(経営革新計画)を策定し、都道府県(場合によっては国)の認定を受けることで、さまざまな優遇措置を受けることができる制度です。
都道府県によって審査のポイントなどが異なるため、一概にこの程度というものはありませんが、基本的にはWord5枚程度の計画書を作成し都道府県に提出してから、数回の修正指示などがあるため、申請から認定まで数カ月程度を必要とします。

<新事業活動に当てはまる取組>
① 新商品の開発又は生産
② 新役務(サービス)の開発又は提供
③ 商品の新たな生産又は販売の方式の導入
④ 役務(サービス)の新たな提供の方式の導入
⑤ 技術に関する研究開発及びその成果の利用その他の新たな事業活動

経営革新計画のメリット

  • 保証・融資の優遇措置:低利融資や保証料の減免等
  • 海外展開に伴う資金調達の支援措置
  • 投資・補助金の支援措置:設備投資にかかる税額控除や補助金の加点
  • 販路開拓の支援措置:専門家派遣等の支援サービス
  • 特許関係料金減免制度

経営革新計画の認定を受けている中小企業に在籍する外国籍社員は、高度人材ポイント制(就労できる在留資格を持つ外国人材の学歴や職歴、年収などを項目ごとにポイントで評価し、70点以上獲得した人を「高度人材」と認定する制度)にて20ポイントが加算されます。近年では、この高度人材ビザの優遇措置を受けるために経営革新計画の認定を受けられる企業様も増えています。

地域経済牽引事業計画

自社が、地域の特性を生かして高い付加価値を創出するための計画(地域経済牽引事業計画)を策定し、都道府県の承認をうけ(税制優遇を受けるためには、加えて国の承認も必要)ることで、税制上の優遇措置を受けることができる制度です。
経営革新計画よりもハードルが高く、着手から国の認定を受けるまで半年程度必要とする場合があります。

地域経済牽引事業計画利用フロー
出典:経済産業省 地域未来投資促進税制について

「地域の特性」とあるように、計画は自社の所在地がどんな特性をもち、何を目指しているのかを把握したうえで、その内容に沿った計画を作成する必要があります。
具体的には、都道府県及び関係市町村が作成する基本計画があり、都道府県または市区町村、どちらかの計画に一致していれば大丈夫です。

例えば三重県の場合は、三重県と県内29市町で統一の基本計画を策定していますし、静岡県浜松市では、浜松市単体でも基本計画を策定しています。自社の所在地がどのような基本計画を策定しているかをまずはご確認ください。
三重県の基本計画
静岡県浜松市の基本計画

地域経済牽引事業計画のメリット

  • 計画に従って建物・機械等の設備投資を行う場合に、法人税等の特別償却(最大50%)または税額控除(最大5%)の優遇措置

経営力向上計画

自社が、経営力向上のために人材育成や財務管理、設備投資などの計画を策定(経営力向上計画)し、国の承認を受けることで、さまざまな優遇措置を受けることができる制度です。
前述の2つの計画よりはハードルが低く、電子申請に対応する業種も増えていますので、早ければ2週間程度で認定を受けることができます。(優遇を受けたい内容により変わります)

経営力向上計画のメリット

  • 生産性向上のための設備を取得した場合、中小企業経営強化税制(即時償却等)による税制面の措置
  • 資金繰り支援(融資・信用保証等)
  • 補助金の加点
  • 他社から事業承継等を行った場合、不動産の権利移転に係る不動産取得税を軽減及び準備金の積立(損金算入)による法人税の軽減
  • 業法上の許認可の承継を可能にする等の法的支援

近年は補助金に関係なく、M&Aに関する税制措置(経営資源集約化税制)を受けるために取得される方も増えている印象です。

事業継続力強化計画

自社が、防災・減災の事前対策に関する計画(事業継続力強化計画、略称ジギョケイ)を策定し、国の承認を受けることで、さまざまな優遇措置を受けることができる制度です。
GbizIDを用いた電子申請により、早ければ2週間程度で認定を受けることができます。

事業継続力強化計画のメリット

  • 日本政策金融公庫による低利融資
  • 信用保証枠の追加
  • 防災・減災設備への税制優遇
  • 補助金の加点

先端設備等導入計画

自社が、労働生産性向上や賃上げ促進のために先端設備を導入する計画(先端設備等導入計画)を策定し、市区町村の承認を受けることで、税制支援や金融支援を受けることができる制度です。
この計画は、自社の所在する市区町村が国から「導入促進基本計画」の同意を受けている場合に利用することができます。自社の自治体名と、「先端設備等導入計画」や「導入促進基本計画」といったキーワードで検索し、確認ください。
市区町村に直接持ち込み(市役所など)手続きをする必要があり、自治体により計画書のチェックポイントが異なったり、追加資料等を必要とする場合がありますので、自社が申請する際にどんな書類が必要なのかも必ずご確認ください。
申請から認定まで、基本的には2週間程度かかります。(これも自治体によります)

例:三重県鈴鹿市の「先端設備等導入計画」説明ページ

先端設備等導入計画のメリット

  • 生産性を高めるための設備を取得した場合、固定資産税の軽減措置
    (地方税法に基づき、課税標準を3年間、1/2に軽減。さらに、賃上げ方針を従業員に表明した場合は、最長5年間、1/3に軽減。)
  • 計画に基づく事業に必要な資金繰りを支援(信用保証)

パートナーシップ構築宣言

ざっくりいうと、取引先と適正な取引を行うという宣言書を作成し、パートナーシップ構築宣言サイト上で公開するものです。中小企業だけではなく、大企業も多くこちらで宣言を公開しています。
ひな形はサイト上からダウンロードできますし、他社の宣言内容を閲覧することもできます。それらを参考にして自社独自の宣言書を作成し、アップロードするだけで、数日後には公開されていることが多いです。

えるぼし・一般事業主行動計画

職業生活において、女性の個性と能力が十分に発揮できる社会を実現するため、女性活躍推進法が平成28年4月1日から施行されています。この法律に基づき、自社の女性の活躍の推進に関する取り組みについて、「えるぼし」認定を受けている企業や、従業員100名以下の企業においては「一般事業主行動計画」を策定し「女性の活躍推進企業データベース」に公表している企業が、補助金申請においても加点を受けることが可能です。(101名以上の企業は「一般事業主行動計画」策定・公表は義務)
※IT導入補助金においては、「えるぼし」認定企業のみ加点対象

くるみん・一般事業主行動計画

日本の急激な少子化の進行に対応して、次代の社会を担う子どもたちの健全な育成を支援するため、次世代育成支援対策推進法が平成17年4月1日から施行されています。この法律に基づき、自社の子育てサポートに関する取り組みについて、「くるみん」認定を受けている企業や、従業員100名以下の企業においては「一般事業主行動計画」を策定し「両立支援のひろば」に公表している企業が、補助金申請においても加点を受けることが可能です。(101名以上の企業は「一般事業主行動計画」策定・公表は義務)
※IT導入補助金においては、「くるみん」認定企業のみ加点対象

健康経営優良法人

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを言います。経済産業省では優良な健康経営に取り組む法人を「健康経営優良法人」として認定しています。

出典:経済産業省

「健康経営優良法人2025」の受付は、令和6年8月19日(月曜日)から令和6年10月18日(金曜日)17時の間でおこなっています。これ以外の期間に申請することはできませんので、自社が当てはまっているという場合には、ぜひ申請することをお勧めします。

おわりに

各種施策は、補助金の加点や税制優遇等を受けられるだけではなく、企業価値の向上においても有効な制度です。
人手不足等も深刻化する中、自社の良い取り組みをこのような公的施策を通して対外的にアピールすることも、めぐりめぐって役に立つ場面も多いのではないでしょうか。
ただ新たな補助金が出るのを待つだけではなく、この機会のさまざまな公的施策について目を通し、利用できるものについては積極的にチャレンジされることをおすすめします。

中小企業診断士+2児の母。 もともとはIT系を得意としていたはずが、補助金の申請支援のご希望が多いため、最近はすっかり補助金支援専門家になりつつありますが、どんなご相談でも歓迎です。1件1件について常により良い結果を目指し、全力で事業者様をご支援しております。