2026年度から、従来のIT導入補助金は「デジタル化・AI導入補助金(令和8年度)」へと名称が変更されます。
すでに公表されているIT導入支援事業者登録案内(公式PDF)を見る限り、制度の基本構造は大きく変わらない一方で、登録手続きや説明資料の整理については、より明確な考え方が示されています。
本記事では、
- デジタル化・AI導入補助金(令和8年度)の制度位置づけ
- IT導入支援事業者の登録区分と手続き
- ITツール登録における実務上の留意点
- AI機能を有するITツールを登録する際の説明整理
について、公式資料に基づいて、ITベンダー・商社向けに整理します。
デジタル化・AI導入補助金とは(令和8年度)
デジタル化・AI導入補助金(令和8年度)は、中小企業・小規模事業者が導入するITツール等の費用の一部を補助する制度です。
制度名称に「AI」が含まれていますが、
- IT導入支援事業者を通じた申請
- 事前のITツール登録
- 交付申請・実績報告
といった制度の基本構造は、IT導入補助金から大きく変更されていません。
ITベンダーに求められる役割は引き続き重要
デジタル化・AI導入補助金においても、ITベンダーは単なるシステム提供者ではなく、
- IT導入支援事業者として制度に参画
- 補助対象となるITツールを登録
- 顧客(中小企業)の申請を制度面から支援
といった制度運用の要となる立場を担います。
特にAI導入や高度なデジタル化がテーマとなることで、
- 中小企業側の制度理解がより難しくなる
- ツール内容と補助金要件の整合性が問われやすくなる
- 形式不備や認識違いによる差戻しリスクが高まる
といった点は、これまで以上に意識する必要があります。
IT導入支援事業者登録は引き続き前提
デジタル化・AI導入補助金においても、ITベンダーが制度に関与するためには、IT導入支援事業者としての登録が前提となります。
実務上は、
- 公募開始後に登録を急ぐ
- 顧客が決まってから動き出す
といった対応では、スケジュールが厳しくなりがちです。
3月上旬に予定されている公募開始を見据え、
- 登録要件の整理
- 社内体制(担当者・管理フロー)の確認
- 過去のIT導入補助金での実績や対応内容の棚卸し
を早めに進めておくことが重要です。
IT導入支援事業者として登録するための具体的手順
IT導入支援事業者としての登録は、デジタル化・AI導入補助金に関与するための第一歩です。以下、具体的な手順と必要書類について解説します。
登録形態の選択
IT導入支援事業者の登録形態には、以下の2種類があります。
| 登録形態 | 概要 |
|---|---|
| 法人(単独) | 法人が単独で登録要件を満たしている場合に選択。補助事業に係る業務の全てを1つの法人が行う。 |
| コンソーシアム | 幹事社1社と構成員1者以上で形成。幹事社は法人のみだが、構成員は個人事業主も可能。 |
【コンソーシアムを形成する必要がある例】
- 補助対象となるITツールの契約・導入・代金の請求受領に複数の事業者が関与する場合
- 料金収納代行事業者(クレジットカード決済を除く)を介して支払いを受ける場合
- セキュリティ対策推進枠で「サイバーセキュリティお助け隊サービス」をコンソーシアムで取り扱う場合
登録申請のフロー
登録申請は、以下の4つのステップで進行します。
まず、公式ホームページから仮登録を行います。
仮登録後、事務局からIT事業者ポータルへのアクセス権が付与されます。
基本情報の入力と、代表的なITツール1つの先行登録を同時に行います。
※コンソーシアムの場合は、主たる構成員1者の情報も入力します。
審査完了後、登録の可否が通知されます。登録が認められたIT導入支援事業者の情報は、本事業のホームページで公開されます。
必要書類一覧
登録形態によって必要書類が異なります。
【法人(単独)の場合】
| 必要書類 | 留意点 |
|---|---|
| 履歴事項全部証明書 | 発行から3カ月以内のもの |
| 納税証明書 | 法人税の直近の納税証明書(その1またはその2)。1期の決算を迎えたうえで提出すること |
| 財務諸表 | 直近分の貸借対照表及び損益計算書。対象年度・借入金・資本金・売上高・経常利益が確認できるもの |
| 販売実績一覧 | 事務局HPで公開されている様式を使用 |
【コンソーシアム(幹事社)の場合】
上記法人(単独)の書類に加えて、
- コンソーシアム協定書
幹事社と構成員で本事業における協定を締結する必要があります。必要事項を記載したコンソーシアム協定書を作成し、登録申請時に提出してください(署名押印済でなくても可)。
【コンソーシアム(構成員)の場合】
法人の場合は法人(単独)と同様の書類が必要です。
個人事業主の場合は、以下が必要となります:
| 必要書類 | 留意点 |
|---|---|
| 本人確認書類 | 運転免許証(有効期限内)、運転経歴証明書、または住民票の写し(発行から3カ月以内) |
| 納税証明書 | 所得税の直近の納税証明書(その1またはその2) |
| 確定申告書 | 令和7年(2025年)分の確定申告書。やむを得ない事情がある場合は令和6年分も可 |
| 財務諸表 | 青色申告:所得税の青色申告決算書 / 白色申告:収支内訳書 |
| 販売実績一覧 | 事務局HPで公開されている様式を使用 |
登録申請期間
事前登録申請は 2026年1月30日から開始されています。一般登録申請は3月開始が予定されています。
登録が認められたIT導入支援事業者情報は、本事業のホームページにおいて適時公開されます。
審査における重要ポイント
審査では以下の点が特に重視されます。
- 過去のIT導入補助金での活動状況
過去の補助金事業において、IT導入支援事業者としての役割を適切に果たしていたか、登録要件や留意事項を遵守していたかが審査の参考とされます。
- 提出書類の完全性
審査の過程で不明な点があった場合、事務局から登録申請が差し戻され、修正または追加書類の提出を求められることがあります。事務局が定める期日までに提出がない場合、登録は認められません。
- 安定的な事業基盤
財務状況、事業実績などから、補助事業を安定的に支援できる基盤があるかが確認されます。
※登録が認められなかった場合、原則として同一年度内での再申請はできません。
ITツール登録の実務ポイントと必要書類
IT導入支援事業者登録が完了した後は、補助対象となるITツールの登録を行います。ここでは、ITツール登録における実務上の重要ポイントを解説します。
ITツールの登録手順
【1つ目のITツール登録(先行登録)】
- IT導入支援事業者の登録申請と同時に、代表的なITツール1つの登録を行います
- 先行登録の対象は、「ソフトウェア」または「サイバーセキュリティお助け隊サービス」のいずれか
- ソフトウェアを先行登録する場合、業務プロセスを有するものが必須(汎用プロセスのみは不可)
【2つ目以降のITツール登録】
- IT導入支援事業者登録が完了した後、2つ目以降のITツール登録が可能になります
- カテゴリーの制限はありません
- 交付申請で使用するITツールは、事前に登録を完了しておく必要があります
ITツールのカテゴリー
ITツールは、以下の大分類・カテゴリーに分類されます。
| 大分類 | カテゴリー | 概要 |
|---|---|---|
| Ⅰ ソフトウェア | カテゴリー1 ソフトウェア | 業務プロセスまたは汎用プロセスのいずれか1つ以上に該当する機能を有するソフトウェア |
| Ⅱ オプション | カテゴリー2 機能拡張 カテゴリー3 データ連携ツール カテゴリー4 セキュリティ | ソフトウェアの機能を補完・拡張するもの |
| Ⅲ 役務 | カテゴリー5 導入コンサルティング・活用コンサルティング カテゴリー6 導入設定・マニュアル作成・導入研修 カテゴリー7 保守サポート | ソフトウェアの導入・活用を支援するサービス |
| Ⅳ ハードウェア | カテゴリー8 PC・タブレット等 カテゴリー9 POSレジ・券売機 | インボイス対応類型で「会計」「受発注」「決済」機能を有するソフトウェアと併せて導入する場合に補助対象 |
| Ⅴ セキュリティサービス | カテゴリー10 サイバーセキュリティお助け隊サービス | IPAが公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービス |
ITツール登録に必要な提出資料
ITツールの登録申請には、以下の資料が必要です。
【1. 機能説明資料】
カテゴリーによって記載内容が異なりますが、共通して以下の情報が必要です。
- ITツールの正式な製品名
- プラン名(複数プランがある場合)
- 開発メーカー名
- 画面キャプチャ(ITツール名が確認できるもの)
- 機能一覧、機能概要図
- 業務フロー図
- ITツールの利用方法
【ソフトウェアの場合の追加ポイント】
- 「ソフトウェアが有するプロセス」に関する内容は、マーカー等で表示のうえ明記
- 「生成AI」または「生成AI以外のAI技術」を用いた機能を搭載している場合、マーカー等で表示のうえ明記
- 「会計」「受発注」「決済」のいずれかの機能を有する場合も同様に、マーカー等で表示のうえ明記
【2. 価格説明資料】
以下の内容が確認できる資料を提出します。
- 料金表、カタログ、プラン一覧等の価格がわかるもの(見積書は不可)
- 価格が税抜か税込かの明記
- 上限の定めがある表記(例:「1,000円~」のような下限のみの表記は不可)
- 料金体系(標準販売価格、ライセンス価格等)ごとの価格記載
- 過去の導入事例・実績
【役務(カテゴリー5-7)の場合】
事務局が指定する価格説明資料が必要です。
- 該当する役務業務ごとに、作業内容の説明が詳細に記載されていること
- 役務を提供する従業員ごとに、時間単価×時間数により価格の内訳が算出されていること
- 時間単価は1万円を超えていないこと
【3. インボイス制度への対応に関する説明資料(該当する場合)】
インボイス制度に対応している場合は、請求書の出力帳票、元帳のサンプル等、対応していることが確認できる資料を提出します。
価格設定における重要な留意点
価格設定は審査において特に重要なポイントです。
- 経済的合理性があり、市場価格を逸脱していないこと
一般的な市場価格と比較して著しく高額である場合は、ITツール登録の対象外となる場合があります。
- 価格の妥当性について説明を求められる場合がある
事務局より説明を求められた場合は、追加資料等により説明を行う必要があります。
- クラウド製品の価格登録
月額・年額で使用料金が定められている形態(サブスクリプション販売形式等)は、1年分のソフトウェア利用料金を登録申請します。複数年契約プランの場合は、1年分に按分した金額を登録申請します。
登録時によくある不備と注意点
IT導入支援事業者登録・ITツール登録において、よくある不備や注意点をまとめました。事前に確認しておくことで、スムーズな登録につながります。
IT導入支援事業者登録でよくある不備
【書類の有効期限切れ】
- 履歴事項全部証明書:発行から3カ月以内
- 住民票の写し(個人事業主):発行から3カ月以内
申請時には必ず発行日を確認してください。
【納税証明書の種類間違い】
有効な納税証明書は「その1」または「その2」のみです。
- ○ 納税証明書(その1):納付すべき税額、納付した税額及び未納税額等
- ○ 納税証明書(その2):所得金額
- × 納税証明書(その3):未納の税額が無いこと
- × 納税証明書(その4):滞納処分を受けたことが無いこと
【財務諸表の記載内容不足】
貸借対照表及び損益計算書には、以下の情報が全て確認できる必要があります。
【貸借対照表】
- 対象年度
- 借入金(存在しない場合は、その旨を補記)
- 資本金
【損益計算書】
- 対象年度
- 売上高
- 経常利益
【個人事業主:確定申告書の受領確認不備】
確定申告書は、税務署が受領したことが分かるもののみが対象です。
以下のいずれかで受領が確認できる必要があります:
- 「確定申告書 第一表の控え」に受付番号と受付日時が印字されている
- 「確定申告書 第一表の控え」と「受信通知(メール詳細)」が添付できる
上記で確認できない場合は、「納税証明書(その2所得金額用)」を提出することで代替可能です。
ITツール登録でよくある不備
【プロセスの選択が不適切】
ソフトウェアが実際に有する機能と、選択したプロセスが一致していない場合、登録が認められません。機能説明資料において、選択したプロセスに該当する機能を明確に示す必要があります。
【AI機能・インボイス対応の申告漏れ】
以下の機能を有する場合、必ず申告が必要です。
- 生成AI機能または生成AI以外のAI技術を搭載している場合
- インボイス制度に対応している場合
- 「会計」「受発注」「決済」のいずれかの機能を有する場合
これらの機能は、機能説明資料においてマーカー等で明示する必要があります。
【価格資料の不備】
- 見積書を価格資料として提出している(見積書は不可)
- 「1,000円~」のような下限のみの表記(上限の定めがない)
- 税抜・税込の表記がない
- システム上で入力する「価格設定の内訳」と資料の内容に整合性がない
【役務の価格説明資料の不備】
役務(カテゴリー5-7)の場合、事務局指定の価格説明資料が必要です。
よくある不備:
- 作業内容の説明が詳細に記載されていない
- 従業員ごとの時間単価×時間数による価格内訳がない
- 時間単価が1万円を超えている
- 税込で記載されている(税抜で記載する必要がある)
【補助対象外の経費が含まれている】
以下は補助対象外となるため、ITツールに含めることはできません。
- 補助事業者の顧客が実質負担する費用
- 交通費、宿泊費
- 補助金申請・報告に係る申請代行費
- 対外的に無償で提供されているもの
- リース・レンタル契約のITツール(サイバーセキュリティお助け隊サービスを除く)
- 中古品
その他の重要な注意点
【複数のITツールを混在させない】
ITツールを登録する際、複数のITツールまたはカテゴリーが異なるITツールを混在して登録することはできません。それぞれ個別に登録を行い、交付申請の際に組み合わせます。
【プラン別の登録】
1つのソフトウェアに複数のプランが設けられている製品は、プランごとにITツールの登録申請を行う必要があります。
【登録後の変更制限】
交付申請や実績報告の際に、IT導入支援事業者・補助事業者によって任意に機能を増減する等の変更はできません。
【差し戻しへの対応期限】
審査の過程で不明な点があった場合、事務局から登録申請が差し戻され、修正または追加書類の提出を求められることがあります。
事務局が定める期日までに提出がない場合、登録は認められませんので、速やかに対応してください。
【ハードウェア販売の事前申告】
インボイス対応類型において補助対象となるハードウェアをITツールとして取り扱う場合、IT導入支援事業者の登録申請時にその旨を申告する必要があります。
申告がない場合、ハードウェア製品をITツール登録することはできません。
※PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機についてはITツールの登録は不要
※POSレジ・モバイルPOSレジ・券売機についてはITツールの登録が必要
ITツール登録は「AI・デジタル化との関係性」がより重視される
公式の登録案内では、AI機能を有するITツールについては、ホームページ上でその旨が表示されるとのことです。従来のクラウド加点・インボイス加点同様に、AI加点がつく可能性が高いと見込まれます。
下記に該当するITツールの場合は、機能説明資料にマーカー等でAI技術を用いたツールであることを明記することが求められています。
【定義】
① 生成AI
文章、画像、プログラム等を生成できるAIモデルに基づくAI
② 生成AI以外のAI技術
上記以外のAIモデル(分類・分析・判断・予測等を行うAIモデル)に基づくAI
顧客(中小企業)の申請支援でよくある課題
デジタル化・AI導入補助金においても、ITベンダーが悩みやすいのが、顧客の申請支援の範囲です。
- 申請書は誰が作成するのか
- 財務情報や事業内容はどこまで確認するのか
- 採択後の実績報告や事後対応はどうするのか
これらを曖昧にしたまま進めると、トラブルや想定外の工数増加につながります。
そのため、
- ITベンダーが担う役割
- 補助金専門家が担う役割
- 顧客自身が行う作業
を明確に切り分けた体制づくりが不可欠です。
ITベンダー向け「ワンストップ支援」という考え方
当事務所では、
- IT導入支援事業者登録の支援
- ITツール登録に関する整理・実務支援
- ITベンダーの顧客(中小企業)の補助金申請支援
までをワンストップで支援しています。
ITベンダーの皆さまが、
- 制度対応に振り回されない
- 本業である開発・営業に集中できる
- 顧客対応の品質を安定させられる
よう、実務負担を意識した支援を行っている点が特徴です。
令和8年度に向けて、今から準備できること
公募要領の詳細が出る前でも、
- 支援事業者としての立ち位置整理
- ITツールの内容・説明資料の見直し
- 顧客への説明方針の統一
といった準備は十分に進められます。
制度開始後に慌てるのではなく、事前に土台を整えておくことが、結果としてITベンダー・顧客双方のメリットにつながります。
まとめ
デジタル化・AI導入補助金は、名称変更こそあるものの、
IT導入補助金の考え方を引き継いだ制度となります。
ITベンダーとしては、
- IT導入支援事業者登録
- ITツール登録
- 顧客の補助金申請支援
を一体として捉え、無理のない形で関与できる体制を構築しておくことが重要です。
制度対応に不安がある場合や、支援体制の整理を検討されている場合は、早めの情報整理と準備をおすすめします。
また、IT導入支援事業者登録・ITツール登録は、補助金制度への参画における重要なステップです。
特に以下の点に注意して、準備を進めることをお勧めします。
- 書類の有効期限と記載内容の確認
- ITツールの機能とプロセスの整合性確認
- AI機能・インボイス対応の申告漏れ防止
- 価格資料の適切な準備
- 補助対象外経費の混入防止
これらを踏まえた適切な準備により、スムーズな登録申請が可能になります。
