2025年度(令和7年度)中小企業対策関連概算要求について

2025年度(令和7年度)中小企業対策関連概算要求

令和7年度予算編成のため、各省庁から財務省へ、取り組みたい内容や、そのために必要な予算を記載した要求書(概算要求)が提出されています。
今回はそのうち、中小企業対策関連の概算要求について解説いたします。

目次

中小企業庁の予算についての情報確認

出典:中小企業庁 中小企業対策関連予算

中小企業庁の予算関連情報については、中小企業庁の上記のページにて公開されています。今回新たに追加されたのは、ページの一番上部にある「令和6年度補正予算・令和7年度当初予算関連」の見出しの下。「令和7年度 中小企業・小規模事業者・地域経済関係 概算要求等ポイント」というファイルです。

補助金は主に当初予算ではなく補正予算の方で予算がつきます。今回公開された情報をみて「来年度は補助金が縮小されるのか」と心配になる方もいらっしゃるかもしれませんが、とりあえず現段階であまり深刻になる必要はありません。(政権の状況にもよるため、楽観的予測もできませんが)

補正予算・当初予算とは?

当初予算は4月から翌年3月までの1年間の基本的な予算です。一方で補正予算は、年度途中において発生した社会情勢の変化などに応じ、国の施策や想定外のことに対応するため、予算を追加で作るものです。

種類概要予算案公表成立執行
当初予算年度開始前に建てる基本的な予算8月頃翌年3月頃翌年4月頃
補正予算年度途中に建てる追加の予算11月頃11月~1月頃翌年3月~4月頃

2025年度の中小企業庁の全体的な方向性

ここからは、公開された概算要求等ポイント資料を分解して深堀していきたいと思います。

「基本的な課題認識と対応の方向性」では、予算要求額や、特に注力していく内容など、全体的な方向性について記載されています。
予算金額については、令和6年度1,082億円に対して令和7年度は1,300億円と20%増加しています。

  • 物価高・人手不足に対応するための価格転嫁対策・資金繰り支援・省力化投資支援
  • 小規模事業者の設備投資・賃上げ促進のための施策の強化
  • 事業承継等の社会課題解決を通し、地域経済の活性化

が重点対応項目となっています。

物価高、人手不足等の厳しい経営環境への対応

物価高、人手不足等の厳しい経営環境への対応

物価高・人手不足等への対応として、当初予算で計上されているのは下記のとおりです。

価格転嫁対策

中小企業取引対策事業

中小企業庁では、毎年3月と9月を「価格交渉促進月間」と位置づけて、この期間中には広報や講習会、業界団体を通じた価格転嫁の要請等を行っています。また、期間終了後には、実施アンケート調査や下請Gメンによるヒアリングを実施し、評価が芳しくない企業に対し、所管大臣名による指導・助言を行っています。
また、国は中小企業の代金の未払い・減額、不当なやり直し・返品、受領拒否、買いたたき、知財やノウハウ関連のトラブル、最低賃金関連のしわ寄せなどのトラブル等について、無料で相談員・弁護士に相談できる「下請かけこみ寺」を運営しています。
これに加え、政府機関、地方自治体の発注分については価格転嫁の強化を進めていくとしています。

資金繰り支援

日本政策金融公庫補給金

日本政策金融公庫から中小企業・小規模事業者に対して貸付を実施するにあたり、基準利率から政策的に利率を引下げて適用している貸付の利息収入差額分等金利引下げ分等について、国から日本政策金融公庫に対して補給金を交付するものです。

中小企業信用補完制度関連補助事業

全国51ある信用保証協会が、経営の安定に支障が生じている中小企業に対する民間金融機関からの融資に保証を行い、債務不履行が生じた場合に発生する信用保証協会の損失の一部を国が補填するものです。また、信用保証協会が専門家派遣等により経営支援を行うための費用です。

中小企業活性化・事業承継総合支援事業

全国にある中小企業活性化協議会において、常駐専門家が、再生支援等に関する相談を受け、課題解決に向けたアドバイスを実施するための費用です。
同様に、全国に設置された「事業承継・引継ぎ支援センター」において、後継者不在の中小企業・小規模事業者と事業等の譲受を希望する事業者とのマッチング支援や、プッシュ型の事業承継診断・事業承継計画の策定支援等を実施するための費用です。

省力化対策・賃上げ対策

中堅・中小大規模成長投資補助金

中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化や工場・倉庫・販売拠点などの新設や増築を補助する「中堅・中小成長投資補助金」に関する予算です。
金額が20億と少ないため、かつ2024年度は「令和5年度補正予算」で実施されているため、来年度の受付のための予算ではなく事務費部分であり、来年度も募集を行う場合は11月頃に公表される「令和6年度補正予算」で予算が付くのではないかと思います。

環境変化に挑戦する中小企業・小規模事業者等の成長支援

成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)

中小企業者等が大学・公設試等と連携して行う、研究開発及びその事業化に向けた取組を最大3年間支援する成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)(補助金)に関する費用です。

中小機構による海外展開支援(中小企業海外展開総合支援事業等)

中小機構による成長志向の中小企業支援

中小機構によるグリーントランスフォーメーション対応支援

いずれも中小企業政策全般にわたる総合的な支援・実施機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業向け支援事業に関する費用です。

中小企業経営強化税制の延長・拡充

中小企業経営強化税制は、中小企業の稼ぐ力を向上させる取組を促進するため、いわゆる経営力向上計画」に基づく設備投資について、即時償却及び税額控除(10%)のいずれかの適用を認める措置です。この措置の期間を2年延長するほか、成長志向の高い中小企業を更に後押しし、売上高が100億円を超える中小企業(100億企業)の創出を推進するため、上乗せ措置の創設等を行うとしています。

地域未来投資促進税制の延長・拡充

地域未来投資促進税制は、「地域経済牽引事業計画」に基づき建物・機械等の設備投資を行う場合に、法人税等の特別償却(最大50%)又は税額控除(最大5%)を受けることができる措置です。
この措置の期間を2年延長するほか、地方公共団体が戦略的に重点支援を行う産業分野に対し新たな枠を設けるほか、従来は最大2年の計画期間中に行った設備投資のみ対象であったものを、最大5年以内に行った設備投資について、税制の適用を可能とするとしています。

中小企業投資促進税制の延長

中小企業投資促進税制は、機械装置等の対象設備を取得や製作等をした場合に、取得価額の30%の特別償却又は7%の税額控除が選択適用できる措置です。この措置の期間を2年延長するとしています。

中小企業の設備投資に伴う固定資産税の特例の延長等

中小企業等経営強化法で規定される先端設備等導入計画」に基づく設備投資について、市町村等の判断により、新規取得される償却資産に係る固定資産税が新たに課税される年から3年間に限り1/2、さらに雇用者全体の給与が1.5%以上増加することを従業員に表明した場合は、新たに課税される年から最長5年間に限り1/3に軽減する措置について、この措置の期間を2年延長するとしています。

小規模事業者支援、社会課題解決をはじめとした地域における取組への支援等

小規模事業者支援、社会課題解決をはじめとした地域における取組への支援等

小規模事業対策推進等事業

商工会及び商工会議所が実施する経営改善のための支援事業等に要する費用です。

地方公共団体による小規模事業者支援推進事業

国と地方公共団体が中小企業基本法及び小規模企業振興基本法の規定に則り行う支援事業に要する費用です。

ゼブラ企業創出・育成のためのエコシステム定着に向けた調査・分析

ゼブラ企業とは、時価総額を重視するユニコーン企業と対比させて、社会課題解決と経済成長の両立を目指す企業を、白黒模様、群れで行動するゼブラ(シマウマ)に例えたものです。
ゼブラ企業の創出・育成に向けた地域エコシステムの定着を図るための調査・分析に関する費用が今回挙げられています。

工業用水道事業費補助金

災害等への対応のための強靱化の対象となる工業用水道施設(貯水、取水、導水、浄水、送水、配水)の整備に要する費用等を補助するものです。

商店街等活性化支援事業

地域の商店街等が抱える課題を解決し、当該地域の魅力・価値向上を図り、持続可能な地域に変革したいという想いを持つ商店街等を対象に、専門家の派遣等、課題解決に向けた取組を伴走支援するものです。

事業承継、再編等を通じた変革の推進

事業承継、再編等を通じた変革の推進

事業承継税制の特例措置における役員就任要件の見直し等

事業承継税制の特例措置は、事業承継時の相続税・贈与税負担を実質ゼロにする措置です。この措置を利用する際に後継者が役員に就任していない場合、特例措置の期限である2027年12月末の3年前となる今年(2024年)の12月末までに、役員に就任する必要がありました。この要件についての見直しをはじめ、必要とされる措置が検討されています。

後継者支援ネットワーク事業

中小企業・小規模事業者の後継者が、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競うピッチイベント「アトツギ甲子園」の実施のための費用です。出場者は各種補助金の加点対象にもなっているイベントです。

経営支援、伴走支援の推進

経営支援、伴走支援の推進

中小企業・小規模事業者ワンストップ総合支援事業

中小企業・小規模事業者等が抱える様々な経営課題に対応するワンストップ相談窓口として、各都道府県に「よろず支援拠点」が設置されています。この拠点のコーディネーターや登録専門家が企業に対し無料相談を行うための費用です。

中堅・中核企業の経営強化支援事業、地域の人事部支援事業

地域の中堅・中核企業の更なる成長に向けた取組を促すとともに、地域の関係者が連携して行う地域企業での人材獲得等の取組を支援することを目的に行う「地域の中堅・中核企業の経営力向上支援事業補助金」等に関する費用です。

「100億企業」創出加速に向けた調査・分析

前述の「100億企業」創出加速に向けた調査・分析を行うための費用です。

地域中小企業人材確保支援等調査・分析

人材活用ガイドライン」等の普及を通じ、多様な人材の戦略的な活用を促進するため、調査・分析を行うための費用です。

おわりに

全体的に、当初予算ということもあり、既存の施策の延長・拡充を目的としたものが多く見られます。また、最近は小規模事業者の支援も継続しつつも、中堅企業向けた成長を後押しする施策が増加傾向のように思います。
全国各地にある無料の相談機関や、中小企業向けの税制優遇措置など、さまざまなものがありますので、自社のステージにあった公的施策の活用のお役に立てば幸いです。

中小企業診断士。 補助金の申請支援や融資に関する相談など、中小企業のお金に関するお悩みの解決に尽力しています。国の施策はとにかく複雑なものが多いですが、1件1件について常により良い結果を目指し、わかりやすくをモットーに、全力で事業者様をご支援しております。