「経営計画なんて、うちみたいな小さい会社には関係ない」——そう思っている経営者の方は少なくありません。

しかし、会社の規模にかかわらず、「これからどうしていきたいか」を整理することは、日々の経営判断の質を大きく変えます。

本記事では、中小企業にとっての経営計画の意味と、難しく考えずに始められる最初の一歩をお伝えします。

経営計画は「分厚い資料」ではない

「経営計画」と聞くと、何十ページにもわたる分厚い資料を想像する方がいるかもしれません。
大企業の中期経営計画のような、数字とグラフが並ぶ立派な冊子をイメージして、「うちにはそんなもの必要ない」と感じてしまうのは無理もないことです。

しかし、中小企業にとっての経営計画は、そのようなものである必要はまったくありません。

経営計画の本質は「なりたい姿を言葉にすること」

経営計画とは、簡単に言えば「自社がこれからどうなりたいのか」「そのために何をするのか」を整理して言葉にしたものです。

紙一枚でもかまいませんし、パワーポイントのスライド数枚でもかまいません。
大切なのは体裁ではなく、経営者自身の頭の中にある「こうしたい」という思いが、目に見える形で整理されていることです。

経営計画とは、「これからの自社の方向性と、そのために取り組むことを言語化したもの」のことです。
形式や分量に決まりはなく、会社の規模や状況に合った内容で十分です。

計画があると日々の判断が変わる理由

日々の経営には、大小さまざまな判断が求められます。
新しい設備を入れるかどうか、新しい人を採用するかどうか、取引先からの依頼を引き受けるかどうか——。

こうした判断のとき、「自分たちはどこに向かっているのか」という軸があるかないかで、判断のスピードと質が大きく変わります。

計画があれば、「これは自社の方向性に合っているか?」という問いを持てるようになります。
逆に計画がなければ、そのつどの状況に流された判断を繰り返しやすくなります。

経営計画がない会社に起きがちなこと

経営計画がないこと自体が悪いわけではありません。
ただ、計画がないことで生じやすい課題があることも事実です。
ここでは、実際の現場でよく見られるケースをご紹介します。

場当たり的な投資判断を繰り返してしまう

計画がないと、設備投資やシステム導入などの判断が「今なんとなく必要そうだから」「業者に勧められたから」といった理由で行われがちです。

個々の投資は間違いではないかもしれません。
しかし、会社全体の方向性と結びついていない投資が積み重なると、「いろいろやったけど、結局何も変わっていない」という状態に陥ることがあります。

経営計画があれば、「この投資は、3年後になりたい姿に近づくためのものか?」という視点で判断できるようになります。

金融機関や取引先への説明に困る

融資の相談や、新しい取引先との商談の場面で、「御社は今後どのような方向を考えていますか?」と聞かれることがあります。

このとき、頭の中にはなんとなくイメージがあっても、言葉にできなかったり、その場でうまく説明できなかったりすることがあります。
金融機関は「この会社はどこに向かっているのか」を重視しますので、計画が言語化されていないと、対話が前に進みにくくなります。

補助金を申請しようとして初めて壁にぶつかる

設備投資を検討する中で「補助金が使えるかもしれない」と知り、申請を考え始める経営者は少なくありません。
しかし、補助金の申請には「事業計画書」の提出が必要です。

日頃から経営計画を持っていない場合、この事業計画書をゼロからつくることになり、大きな負担になります。
さらに、急いでつくった計画書は内容が薄くなりがちで、審査で評価されにくいという問題もあります。

普段から経営の方向性を整理しておくことは、補助金申請に限らず、さまざまな場面で「いざというとき」の備えになります。

最初の経営計画は「3つの問い」から始める

「経営計画の大切さはわかったけれど、何から始めればいいのかわからない」——そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。

最初から完璧な計画をつくる必要はありません。
まずは、以下の3つの問いに答えることから始めてみてください。

問い1 ―「3年後、どうなっていたいか?」

まず考えていただきたいのは、「3年後、自分の会社がどのような状態になっていたいか」ということです。

売上をいくらにしたいか、という数字の話だけではありません。
たとえば、こんなことを考えてみてください。

  • どんなお客様に、どんな価値を届けていたいか
  • 従業員にどのような働き方をしてもらいたいか
  • 地域や業界の中で、どんな存在でありたいか

漠然としていてもかまいません。
「なんとなくこうなっていたい」という思いを言葉にするだけで、計画の出発点になります。

問い2 ―「今の強みは何か?」

次に考えていただきたいのは、「お客様が自社を選んでくれている理由は何か」ということです。

中小企業の場合、意外と経営者自身が自社の強みを意識していないことがあります。
しかし、お客様が選んでくれている以上、必ず理由があるはずです。

  • 技術力や品質の高さ
  • きめ細かい対応やスピード
  • 長年の信頼関係
  • 独自のノウハウや専門性

この強みを活かす方向で計画を考えると、実現可能性の高い計画になりやすくなります。

問い3 ―「そのために何が必要か?」

なりたい姿と今の強みが整理できたら、最後に「そこにたどり着くために、何が足りないか」「何をすればいいか」を考えます。

  • 古くなった設備の更新が必要かもしれない
  • 新しい販路の開拓が必要かもしれない
  • 業務を効率化する仕組みが必要かもしれない
  • 人材の採用や育成が必要かもしれない

ここで挙がった「必要なこと」が、設備投資やシステム導入、人材採用などの具体的なアクションにつながっていきます。
そして、それらのアクションを実行するための資金が必要になったとき、融資や補助金といった支援制度が「手段」として登場します。

まとめ:経営計画の最初の3つの問い

  • 問い1:3年後、どうなっていたいか?(なりたい姿)
  • 問い2:今の強みは何か?(自社の現在地)
  • 問い3:そのために何が必要か?(ギャップを埋めるアクション)

この3つを紙に書き出すだけでも、立派な経営計画の第一歩です。

経営計画が補助金申請・融資相談の土台になる

ここまでお読みいただいた方の中には、「経営計画の大切さはわかったけれど、それと補助金や融資にどういう関係があるのか?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。

実は、経営計画を持つことは、補助金の申請や金融機関への融資相談を円滑に進めるうえでも大きな力になります。

補助金の事業計画書は「経営計画の一部」

補助金を申請する際には、事業計画書の提出が求められます。この事業計画書の中核にあるのは、「自社の現状分析」「投資の目的」「期待する効果」といった内容です。

日頃から「なりたい姿」と「そのために必要なこと」を考えていれば、これらの内容はすでに頭の中に整理されています。事業計画書は、それを補助金の書式に沿って書き起こすだけです。

一方、経営計画がない状態で事業計画書を書こうとすると、「何を書けばいいかわからない」「設備のカタログをそのまま写してしまう」という事態に陥りがちです。

融資相談でも「なりたい姿」が問われる

金融機関に融資を相談する場面でも同様です。
金融機関が知りたいのは、「なぜお金が必要なのか」だけでなく、「そのお金を使って事業をどうしていきたいのか」「返済の見通しはどうなっているのか」ということです。

経営計画があれば、これらの質問に対して筋道立てた説明ができます。
金融機関との対話がスムーズに進むことで、融資の可能性も高まります。

計画は「一度つくって終わり」ではない

経営計画は、一度つくったらそのまま棚にしまっておくものではありません。
事業環境の変化に応じて見直し、修正していくものです。

年に一度でも見直す機会を持つことで、「今、自分たちはどこにいるのか」「当初の計画とズレていないか」を確認できます。
この振り返りの習慣が、次の投資判断や経営改善のきっかけになります。

よくある質問(FAQ)

Q
従業員が数名の小さな会社でも経営計画は必要ですか?
A

はい、むしろ小さな会社ほど経営計画の効果は大きいと言えます。社長の頭の中にあるビジョンを言葉にしておくことで、従業員との方向性の共有がしやすくなり、日々の業務判断にもブレが少なくなります。形式にこだわる必要はなく、A4用紙1枚に書き出すだけでも十分です。

Q
経営計画をつくったことがないのですが、自分だけでつくれますか?
A

まずは本記事でご紹介した「3つの問い」に答えることから始めてみてください。自分だけでは整理しきれないと感じた場合は、中小企業診断士や商工会議所の経営相談窓口に相談するという選択肢もあります。専門家と対話することで、自分では気づかなかった強みや課題が見えてくることがあります。

Q
経営計画と事業計画は違うものですか?
A

厳密な定義は場面によって異なりますが、一般的に「経営計画」は会社全体の中長期的な方向性を示すもの、「事業計画」は特定の事業や投資に焦点を当てた計画を指すことが多いです。補助金申請で求められる「事業計画書」は、経営計画の中から特定の投資に関する部分を抜き出し、詳しく説明するものと捉えるとわかりやすいです。

Q
経営計画をつくると補助金の審査に有利になりますか?
A

経営計画を持っていること自体が直接的に加点されるわけではありません。ただし、日頃から自社の方向性を整理している経営者は、事業計画書の内容に一貫性があり、投資の目的が明確に伝わりやすくなります。結果として、審査で高い評価を受ける計画書になりやすいということは言えます。

まとめ ― 計画を持つことは、経営を自分の手に取り戻すこと

経営計画を持つことは、大げさなことではありません。
「自分の会社をどうしていきたいか」を言葉にする、ただそれだけのことです。

しかし、その「ただそれだけのこと」が、日々の経営判断を変え、金融機関との関係を変え、設備投資の質を変え、補助金の申請書の説得力を変えていきます。

計画がなければ、経営は周囲の変化や他者の勧めに振り回されやすくなります。
計画があれば、自分自身の意思で経営の舵を取ることができます。

まずは「3つの問い」に答えることから始めてみてください。
そこから見えてくるものが、きっとあるはずです。

経営計画・事業計画の策定についてのご相談

当事務所(イグナル・コンサルティング)では、「なりたい姿」を起点にした経営計画の策定をお手伝いしています。

補助金の申請ありきではなく、まず「自社がどうなりたいのか」を一緒に整理するところから支援を行います。
その結果として補助金の活用が適切であれば、申請支援にもつなげていきます。

「経営計画を考えてみたいけれど、一人では難しい」と感じたら、お気軽にご相談ください。