「採択率はどのくらいか」「どうすれば採択されるか」。
デジタル化・AI導入補助金(旧・IT導入補助金)の申請を検討するとき、多くの方がこの2つの疑問を持ちます。
採択率は公募回・年度・申請枠によって変動しますが、最新の採択結果はミラサポplusや事業実施機関の公式ページでご確認ください。
本記事では採択率の数字よりも大切な、「採択を左右する3つの準備ポイント」を、令和8年度(2026年度)の公募要領に基づいて解説します。
デジタル化・AI導入補助金とは
デジタル化・AI導入補助金とは、中小企業・小規模事業者がITツールやAIシステムを導入するための費用を国が一部補助する制度です。
令和8年度(2026年度)から、従来の「IT導入補助金」を引き継ぐ形で制度名称が変更されました。クラウド型の業務管理システム、会計ソフト、受発注システム、AIを活用した生産管理ツールなど、幅広いデジタルツールの導入に活用できます。
申請は、国が認定した「IT導入支援事業者(ITベンダー)」と共同事業体を組み、事務局に対して申請する仕組みです。
事業者単独では申請できません。
IT導入補助金2025(令和7年度)の採択率データをお探しの方は、IT導入補助金2025 採択率まとめ(1〜8次)をご覧ください。
この補助金の特徴——文章力よりも「選択力と加点力」が問われる
多くの補助金は、事業計画書に数千字の文章を書いて審査を受けます。
一方、デジタル化・AI導入補助金の申請フォームは構造が異なります。記載する文章は「導入するITツールで実現したいこと」などに対する250字程度の記述のみで、残りの多くは数値の入力もしくは選択肢を選ぶ形式です。
つまり、「どう書くか」よりも「何を選ぶか」「申請要件を満たしているか」「加点をどれだけ取れるか」が採否を大きく左右します。この補助金に向けた準備の重点は、次の3つです。
準備ポイント① 選択肢は丁寧に選ぶ
申請フォームには、自社の現状や、ITツールを活用して今度どうしていきたいかなど、多くの選択肢が並んでいます。「なんとなく」で選ぶのではなく、自社の実態に最も合う選択肢を丁寧に選ぶことが重要です。
準備ポイント② 申請要件をひとつも漏らさない
この補助金には「申請要件」と「加点要件」の2種類があります。申請要件は採択・不採択以前に「申請できるかどうか」を左右する条件です。ひとつでも満たしていなければ門前払いになります。令和8年度(2026年度)公募要領(通常枠)に定める主な申請要件は以下のとおりです。
【申請要件】gBizIDプライムの取得
申請の大前提として、政府が提供するビジネス向け認証サービス「gBizIDプライム」を取得している必要があります。書類郵送から取得まで数週間かかるケースがあるため、補助金の申請を検討し始めた段階で早めに手続きを開始してください。詳細はgBizIDの公式サイトでご確認ください。
【申請要件】SECURITY ACTIONの宣言
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の「★一つ星」または「★★二つ星」いずれかの宣言が必須です。これは過去に加点扱いだった時期もありましたが、令和8年度公募要領では申請要件(必須)として定められています。宣言は無料で行えますが、申請前に必ず完了させてください。
【申請要件】労働生産性の向上計画
交付申請時点の翌事業年度以降3年間の事業計画を策定し、1年後に労働生産性を3%以上向上させること、および年平均成長率3%以上の向上が申請要件として求められます。
【申請要件】賃金引上げ計画の策定・従業員への表明
申請枠によっては、1人当たり給与支給総額(非常勤を含む全従業員)の年平均成長率を3.0%もしくは3.5%以上向上させる計画の策定と、その計画を従業員に表明することが申請要件となっています。
単なる「将来の努力目標」ではなく、従業員への表明まで求められている点に注意が必要です。
必須要件であるところを未達となった場合、補助金の返還義務が課せられます。
準備ポイント③ 加点項目を確認し、取得できるものを準備する
申請要件を満たした上で、採択結果に影響するのが「加点」の取得状況です。同じ選択肢を選んでいても、加点の取得数によって審査結果が変わることがあります。
「公募が開始されたから準備しよう」では間に合わないものがあるため、早めに確認しておきましょう。
以下は、デジタル化・AI導入補助金2026の加点項目一覧です(2026年3月4日時点)。
通常枠とインボイス枠(インボイス対応類型)を中心に解説します。
電子取引類型・セキュリティ対策推進枠・複数者連携枠については、公募要領の別紙でご確認ください。
クラウドを利用したITツール導入の検討(通常枠のみ)
クラウド型のITツールを導入対象として検討していることが加点要件です。
通常枠のみが対象で、インボイス枠には設定されていません。
インボイス対応ITツール導入の検討(通常枠のみ)
インボイス制度への対応機能を持つITツールの導入を検討していることが加点要件です。通常枠のみが対象です。インボイス枠(インボイス対応類型)はそもそもインボイス対応が申請の前提となるため、この加点項目は設定されていません。
賃上げの事業計画の策定、従業員への表明、事業計画の達成(通常枠・インボイス対応類型 両方)
賃上げに関する事業計画を策定し、従業員に表明していることが加点要件です。通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)の両方に設定されています。
なお申請金額・過去の受給状況によっては、賃上げ計画の策定・表明が申請要件(必須)になる場合もあります。自社のケースは公募要領等でご確認ください。
最低賃金に関する状況(通常枠・インボイス対応類型 両方)
事業場内最低賃金の水準(地域別最低賃金との差)が加点要件として設定されています。通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)の両方が対象です。申請金額・過去の受給状況によっては申請要件になる場合もあるため、公募要領等で自社のケースをご確認ください。
国の推進するセキュリティサービスを選定しているか(通常枠・インボイス対応類型 両方)
経済産業省や関係機関が推進するセキュリティサービスを選定していることが加点要件です。具体的な対象サービスは事務局サイトでご確認ください。通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)の両方が対象です。
デジタル化支援ポータルサイト「デジwith」における「IT戦略ナビwith」を行っていること(通常枠・インボイス対応類型 両方)
中小機構が運営するデジタル化支援ポータルサイト「デジwith」の「IT戦略ナビwith」を活用していることが加点要件です。IT戦略ナビwithは自社のデジタル化の方向性を整理するための無料のナビゲーションツールで、補助金申請の準備と並行して取り組みやすい加点項目のひとつです。
通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型)の両方が対象です。
健康経営優良法人2026(通常枠・インボイス対応類型 両方)
経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」において、健康経営優良法人2026の認定を受けていることが加点要件です。
くるみん・えるぼし認定(通常枠・インボイス対応類型 両方)
厚生労働省の「くるみん認定(子育てサポート)」または「えるぼし認定(女性活躍推進)」を取得していることが加点要件です。いずれか一方の取得でも対象となります。認定取得には審査・手続きが伴うため、現在取得していない場合は中長期的な取り組みとして検討してください。
成長加速マッチングサービスへの登録(通常枠・インボイス対応類型 両方)
中小企業庁が提供する「成長加速マッチングサービス」への登録が加点要件です。登録は無料で行えます。具体的な登録方法は事務局サイトまたはミラサポplusでご確認ください。
省力化ナビの活用(通常枠・インボイス対応類型 両方)
中小企業庁が提供する「省力化ナビ」を活用していることが加点要件です。省力化ナビは自社の省力化・業務効率化の方向性を整理するためのツールで、比較的取り組みやすい加点項目です。申請準備と並行して早めに確認しておくことをおすすめします。
その他の枠(電子取引類型・セキュリティ対策推進枠等)をご検討の方へ
電子取引類型・セキュリティ対策推進枠・複数者連携デジタル化・AI導入枠については、加点項目の内容が上記と異なります(SECURITY ACTIONの「★★二つ星」宣言が加点となる枠もあります)。必ず最新の公募要領をご確認ください。
申請要件・加点要件の全体像を整理する
この補助金の要件は、申請枠と、過去の受給履歴の有無によって、適用される内容が異なります。公募要領を確認し、自社の申請額と受給履歴に照らして、どの項目が申請要件でどの項目が加点要件なのかを事前に確認することをおすすめします。
「申請要件だと思っていたものが実は加点だった」「加点だと思って準備しなかったものが申請要件だった」というミスは、準備の段階で公募要領を丁寧に読むことで防げます。
公募スケジュール・最新情報の調べ方
デジタル化・AI導入補助金の公募スケジュールや採択結果は、事務局の公式サイトや以下の公的ポータルサイトで随時公表されます。補助金情報は年度・公募回によって変わるため、常に最新の公募要領を確認する習慣をつけることが重要です。
- ミラサポplus(中小企業庁):国の補助金・支援施策を横断的に検索できる公式ポータル。「デジタル化・AI導入補助金」の公募情報も掲載されます。キーワード検索や業種・目的別の絞り込みができるため、自社に合った施策を探す入口として最適です。
- デジタル化・AI導入補助金事務局サイト:公募要領・採択結果・Q&Aが掲載される公式窓口です。申請前に必ず最新の公募要領と別紙一覧表をダウンロードしてご確認ください。
なお、補助金の公募情報はSNSや民間サイトにも多く出回りますが、記載内容が古かったり、特定のITツール販売と結びついた情報が含まれることもあります。必ず公的機関のサイトか、事務局の公式情報で確認することをおすすめします。
当事務所の支援スタンス
イグナル・コンサルティングでは、補助金ありきの申請支援は行っていません。「補助金が使えるからデジタル化しよう」ではなく、「この業務課題を解決したい、そのためにこのツールが必要、補助金はその後押しとして活用する」という順番で、経営の方向性を一緒に整理するところから支援しています。
「申請要件を自社が満たしているか」「選択肢として適切な枠はどれか」「公募要領の読み方がわからない」といった具体的な申請準備のご相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
- QSECURITY ACTIONは加点ですか?申請要件ですか?
- A
令和8年度(2026年度)の公募要領では、「★一つ星」または「★★二つ星」いずれかの宣言が申請要件(必須)として定められています。宣言なしでは申請できません。過去の年度で加点扱いだった情報が出回っている場合がありますが、必ず最新の公募要領でご確認ください。
- Q採択率はどのくらいですか?
- A
公募回・申請枠・年度によって異なります。前身のIT導入補助金2025では、公募回によって通常枠で30〜50%程度の幅がありました。採択率は参考情報として捉えつつ、申請要件の充足と加点の取得に注力することが採択への近道です。最新情報はミラサポplusでご確認ください。
- Q過去にIT導入補助金を受けていると不利ですか?
- A
IT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者には、追加の要件(賃金引上げ計画の策定の義務化、賃上げ率のアップなど)が課されます。また過去の採択で実績報告が未完了の場合は申請要件を満たさないこともあります。過去の受給状況と報告の完了状況を事前に確認してください。
- Q申請はITベンダーに任せてよいですか?
- A
申請手続きはITベンダーが主導しますが、事業者が入力するべき画面をベンダー等に代理入力させることは不正行為になります。また賃金引上げ計画の策定と従業員への表明は申請者自身が行うものです。申請内容を理解しないまま採択されると、採択後の報告や実際の事業活用の場面で困ることがあります。
まとめ
デジタル化・AI導入補助金の採択を左右するのは、文章の巧拙よりも「選択肢の正確さ」「申請要件の充足」「公募要領に記載の加点取得」の3点です。特にSECURITY ACTIONの宣言や賃金引上げ計画の従業員への表明は、加点ではなく申請要件として定められており、満たしていなければ申請すらできません。
公募スケジュールや最新の公募要領はミラサポplusや事務局公式サイトでご確認ください。申請を検討し始めた段階で早めに情報収集を始めることをおすすめします。
申請要件を自社が満たしているかの確認、選択肢の選び方、公募要領の読み方など、具体的なご相談はお気軽にお問い合わせください。
