はじめに
三重県は製造業が盛んな地域であり、自動車産業や電子部品産業などが特に重要な産業として挙げられます。これらの産業は県内外から多くの企業が集積しており、地域経済に大きな影響を与えています。また、三重県は農産物や水産物の生産が盛んであり、食品加工工場も多く存在します。特に、伊勢海老や伊勢うどんなどの地域特産品を扱う工場があり、伝統的な製法や技術を活かした加工が行われています。
三重県戦略企画部統計課が作成した「2020 年工業統計調査結果報告書」によると、三重県の産業を製造品出荷額順にみると、輸送用機械器具製造業が最も多く、電子部品・デバイス・電子回路製造業、化学工業の順となっており、この 3 産業で全体の 51.5%を占めています。四日市コンビナートの存在や、名古屋等の大都市に近いという立地、海に面した地形など、さまざまな要因が地域経済の発展に大きく貢献しているものと考えられます。
本記事では、このように活力ある三重県の企業のうち、中小・中堅企業が工場等の拠点新設・大規模設備投資をする際に活用できる「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」についてご案内します。
目次
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金とは
「中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金」は、令和5年補正予算によって実施される補助金です。今回新たに新設された補助金であり、事務局は博報堂とTOPPANのコンソーシアムによって実施されます。1
現在第2回の公募が開始しており、公募締切は令和6年8月9日です。日程的におそらく令和6年度は2回が採集になるかと思います。(さすがにそれ以上公募があったとしても、期間中に大規模投資を達成できる企業はかなり限られるかと思います)
令和6年6月17日に行われた「第8回中堅企業等の成長促進に関するワーキンググループ」内での「今後の取組方針」に大規模成長投資補助金について記載がありますので、来年度も継続実施されることが予想されます。今回は準備が間に合わなかったという企業様は、来年の公募を見据えて、事前に投資計画の検討を進められるのもよいかと思います。
事業の目的
補助金は、国の政策の実現を目指し実施されるものであり、中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金については、下記を目的にするとしています。
中堅・中小企業が、持続的な賃上げを目的として、足元の人手不足に対応した省力化等による労働生産性の抜本的な向上と事業規模の拡大を図るために行う工場等の拠点新設や大規模な設備投資に対して補助を行います。
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金概要資料
さまざまな業界で人手不足が深刻化し、また、急激な物価上昇に賃上げがなかなか追いつかない中、両方の課題解決に繋がる大規模な設備投資(工場等の新設)に積極的に取り組む企業を支援することを目的として、新たに創設されたものと考えられます。
補助上限および補助率
補助上限 | 補助率 |
---|---|
50億円 ※投資下限は10億円 | 1/3以内 |
補助上限50億円、補助率1/3以内とのことですので、150億円以上の投資が発生する場合は満額50億円の補助、60億円の投資であれば20億円の補助ということになります。
単独企業の申請だけではなくコンソーシアム形式で複数の企業の共同体による応募も可能です。
1企業で満額50億円の事業計画というのは実施期間を考えてもなかなか現実的ではないかとも思いますので、平均的な補助金額は20億円(60億円の工場新設を想定)と考えると、単純計算で150社程度が利用できる可能性があります。
申請要件
現状公開されている申請要件は下記の通りです。(正確性よりわかりやすさを優先して意訳していますので、より正確な要件は公式HPをご確認ください)
- 中小・中堅企業である(従業員が2000人以下である)
- 大企業株主ではない(みなし大企業)
- 申請企業の主たる事業が農業等の1次産業ではない
- 事業実施期間中の投資金額が10億以上である
- 事業実施後3年間、事業に関わる従業員1人当たりの給与総支給額を、地域別最低賃金の伸び率以上の割合で向上できる
補助金獲得におけるポイント
中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金の利用を検討する際には、特に下記のポイントが満たせるかどうかをご確認いただくことをお勧めします。
ポイント1:省力化
さまざまな業種で人手不足が深刻化する中、事業の実施により省力化がどの程度見込まれるのかを、具体的な数字で説明できる投資でしょうか?
省力化の計算方法はさまざまですが、「かかる人数を削減する」のか「一人当たりの時間を削減する」のか、「具体的にはどのくらい削減されるのか」についてご確認ください。
ポイント2:賃上げ
補助事業後も3年間「対象事業に関わる従業員1人当たり給与支給総額」を向上させることが求められています。給与支給総額には従業員の給与・賞与の他、役員報酬の金額も含まれます。他の補助金では単に「給与支給総額」の向上が要件になっていることが多いのですが、この場合、既存従業員について賃上げが行われなくても新たに従業員を採用すれば達成できてしまうのですが、本補助金については「1人当たり」となりますので、違いにご注意ください。
補助金の申請時に掲げた賃上げ目標を達成できなかった場合、未達成率に応じて補助金の返還を求めます。
とあり、単なる努力目標ではありません。補助金を受け取ったら終わりではなく、その後数年間賃上げの達成状況について継続的なチェックが必要です。
ポイント3:地域性
「地域の雇用を支える」という目的から、「自社と顧客」の関係性だけではなく「自社と地域」の関係性、地域への波及効果も審査項目となっています。地域からの雇用や地域企業との連携、地域の特産品の活用など、地域との関連性の深さをアピールできるかどうかも重要な要素となっています。
一般的な補助金申請から入金までの流れ
一般的な補助金の流れを基に、中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金で想定されるフローについてご説明します。
一般的な補助金は、申請~審査~補助事業の実施~完了報告~補助金の入金という流れで進みます。
今回の公募については、申請後の審査は書類による1次審査と、プレゼンによる2次審査に分かれています。事業計画書の作成をコンサルタント任せにしてしまうと、審査員に変化球な質問をされてしまい答えられないということもありえますので、事業計画の作成は人任せとならないようにご注意ください。
1次・2次審査を通過し、採択された事業者のみが、その後交付申請(実際にどこに何をいくらで発注するのか、見積書等の提示)を終えた後、事業計画書に記載した補助事業を開始することができます。
事業実施期間は交付決定から3年以内と長期にわたるため、完了報告を待たずに、途中で数度の遂行状況報告も求められる可能性があります。規模が大きい補助金の為、確認は書類上だけではなく事務局による現地確認も行われる可能性がありますので、補助事業実施に際して発生した各種証憑類(見積書や発注書、契約書など)については、求められたらスムーズに確認ができるように、きちんと随時ファイリングを行うことをおすすめします。
補助金入金後は、数年間にわたり、毎年1回(4月から60日以内)状況報告が求められます。今回の補助金であれば賃上げも目的としていますので、決算書に加えて賃上げ状況を証明できる賃金台帳等の提出も行えるように準備をすることが必要です。
さいごに
事業の目的でご説明の通り、中小・中堅企業向けの補助金としては補助上限が非常に高いものの、令和6年度の公募については実施期間が2026年12月とされており、後になればなるほど大規模な事業を期限内に完成させることは難しくなりますので、早めに計画書作成の準備を進め、申請を行っていただくことをお勧めします。
高額の補助金の為、各種手続きは複雑になることも考えられますので、必要に応じて専門家の支援もぜひご検討ください。当事務所でも無料相談は承っておりますし、相談の上で専門家の支援は受けずに自社で取り組むというのでも全く構いません。制度に対する理解をしっかり行ったうえで、ぜひ自社の成長(および従業員や地域の満足度向上)に繋げていただければと思います。
参考データ
- TOPPANはIT導入補助金の事務局も行われていますが、サポート電話の対応が非常に丁寧なイメージがあります。(一方で申請システムはちょっと使いづらいのは難点) ↩︎