補助金のメリット・デメリット

はじめに

「国からもらえる返済不要のお金」。補助金をそのように認識されている方は多いのではないでしょうか。その言葉だけ見ると「利用するに越したことはない」と思われるかもしれませんが、補助金はメリットだけではなく、実はデメリットも存在します。
私の方に直接ご相談をいただいた方に対しては、補助金について詳しい説明をする際に、必ずそのデメリットの部分もお伝えさせていただいています。しかし、通常このデメリット部分は(だいたい公式の提供する情報が複雑なこともあって)なかなか誰かに説明されないと気付けないことも多く、最近のニュースなどを見ると、採択されたはいいものの、その後のトラブル等にお困りの方も増加しているように見受けられます。
そのため、この記事では補助金を検討される際に知っておいていただきたい「補助金のメリット」と「補助金のデメリット」をお伝えいたします。

補助金を認知・活用する企業の増加

これまで当事務所では、国の補助金から地方自治体独自の補助金まで、さまざまな補助金の活用支援を行ってきました。私が補助金の支援に携わり始めた2017年頃は、国の補助金も春・秋の2回程度の公募がある程度でした。そのため、補助金はどちらかというと「制度を知っている一部の企業が活用できる」ものであり、「知っていたらあの設備投資の時に補助金を申請したのに…」と、設備投資をした後で補助金の存在を知るという企業様も多い状況でした。
しかし、その後国の補助金が数カ月間隔での通年募集となったことで、ぐっと身近な存在になりました。それと同時に補助金支援を行うコンサルタントも増加し、それぞれ支援範囲は様々かと思いますが、とにかくチャレンジしやすい環境となりました。
公的機関等で行っているアンケート等でも、以前は「補助金を知っているか/活用したことがあるか」といった質問が多かったのが、最近では「どの投資に補助金を使ったか/利用しなかったのはなぜか」と、質問の内容も変わってきたなと感じています。

補助金のメリット

返済不要のお金がもらえるメリット

なんといっても、補助金を利用する第一の目的はこの「返済不要のお金がもらえる」ということに尽きるかと思います。
補助金は小規模なものから大規模なものまでさまざまですが、いずれも「補助上限額」と「補助率」が設定されています。補助率は1/2や2/3など(補助金によっては10/10、つまりは全額補助という稀な例も)補助金によって異なります。例えば従業員5名以下の小規模事業者が、小規模事業者持続化補助金を使ってチラシを作成しポスティングをするのに75万円中50万円の補助を受けられるのは非常に大きいです。
また、高額な1500万円の機械設備を導入するにあたり、ものづくり補助金を使って1000万円の補助を受けられるのであれば、その1000万円分で他にできることもまた様々です。
何か新たなことにチャレンジをする必要性を感じていても、その解決に多額の先行投資が必要とする場合、なかなか実行に移すことは難しいものです。補助金を受けることでリスクを下げられるということは、間違いなく大きなメリットであるといえます。

計画について国等からのお墨付きをもらえるメリット

補助金は「審査」という過程を経て「採択」されます。つまり、審査員が他社の計画書などを審査したうえで点数付けを行い、上位に位置すると認められた計画であるといえます。
補助金は単に取り組み内容が素晴らしければ採択されるわけではなく、その計画を確実に実現できるか、実現性等も評価対象となっています。
ものづくり補助金等の採択を受けた実績があることが、金融機関から高評価を得た一因となったという例もありますので、自社のビジネスの信頼性の獲得にも役立てることができます。

宣伝効果を得られるメリット

国や自治体は予算を組んで、税金を使い補助金を実施します。その効果をアピールするために、補助金を採択した事業者にインタビューを行い、事例として公開することがあります。
国等が自社の宣伝を行ってくれるようなものです。
採択後に事務局等から連絡があった場合には、このようなインタビューの依頼が理由という場合もありますので、ぜひ積極的に受けたいものです。

補助金のデメリット

厳密には返済不要ではないデメリット

メリットを完全に打ち消すような話となってしまいますが、厳密には補助金は完全に「返済不要」というわけではありません。下記のような場合には、補助金の返還を求められる場合があります。

  1. 事業計画と異なる目的で購入した設備を利用した(目的外利用)
  2. 事業実施後の報告等の手続きを行わなかった
  3. 補助金を利用できる要件を満たさなくなった
  4. 補助金の交付額を上回るほど大きく利益を得た(収益納付)

事業計画と異なる目的で購入した設備を利用した(目的外利用)

補助金の多くは、申請時に「何の目的でこの投資が必要なのか」を計画書中で説明する必要があります。計画書に記載する目的外で使用していたことが発覚した場合、補助金の返還が求められることとなります。

事業実施後の報告等の手続きを行わなかった

補助金は採択を受けた後、計画書中に記載した投資を行い、それで終わりというわけではありません。投資を完了した時点での完了報告書や、その後数年にわたる状況報告(多くは年1回)が必要となります。補助金を受け取る代わりに発生した義務とも言えます。
報告の期日が近くなると事務局からメール等が届くことが多いですが、これを見過ごしたり、単なるメールマガジンかと放置していると、報告義務を行ったということで返還を求められることがあります。

補助金を利用できる要件を満たさなくなった

補助金には、それぞれ利用できる事業者の条件が設定されています。また、採択を受けた事業者のみが利用できる権利を受けています。
そのため、個人事業から法人成りをしたり、従業員の人数が増加したり、設備や事業を他社に売却した場合などには、減価償却分も加味したうえで、一部返還を求めらることがあります。

補助金の交付額を上回るほど大きく利益を得た(収益納付)

補助金により大きな収益を得た場合、補助金を受けた金額以下で収益納付を求められる場合があります。
企業全体の利益で判断されるわけではなく、あくまで「補助金により得た収益」に限定されます。例えばケーキ屋が補助金を用いて焼き菓子を販売するECサイトを作った場合には、店頭販売分は無関係となり、ECサイト経由で得た収益(売上から経費を除いた金額)分についてのみ返還が求められる場合があります。
投資の結果新たに大きく利益を出せた(成功することができた)という意味で損はしていないはずではありますが、完全に「返還不要」と思っていると驚くことになりますので、事前に条件は必ず確認しておきましょう。
なお、2024年からは、国の補助金においては「過去に採択を受けた補助金で収益納付が発生していない場合は審査で減点」というルールが付け加わった補助金も増えています。
税金を投入した以上、黒字化してもらわないと困るということなのでしょうが、積極的なチャレンジによる経済活性化という面では「減点」ではなく「収益納付を行った企業は加点」とプラス評価にしてほしいなあと思わなくもありません。

補助金のスケジュールに沿った購入計画を立てる必要があるデメリット

補助金は一般的に、「申請」→「採択」→「計画実行」→「完了報告」→「補助金入金」というフローにより進みます。

補助金のフロー

一般的な補助金であれば、申請受付期間が2週間~1カ月程度。その後の審査機関が1カ月~2カ月程度。採択を受けてから、補助金によっては「交付申請」(具体的に何を買いたいのか事務局に伝えるターン)の手続きに1カ月程度かかり、そこでようやく発注が可能となります。申請のためには1カ月程度の計画書作成期間を必要とすることを考えると、「補助金を申請しよう」と決断してから「発注」まで、1季節が余裕で過ぎてしまいます。

また、補助金は『後払い』のため、一度全額支払いをしてから補助金が入金されるまでも、補助金によって2カ月~3カ月程度間があきます。(ここで報告時に不足等があると、補助金入金はどんどん後ろにずれていきます)

発注をして実際に利用できるタイミングや、補助金が入金されるタイミングが、いずれも国のスケジュールに沿って進められるため、自社が望むタイミングですぐに投資を行えるわけではありません。
補助金を従来から定期的に活用している企業様の中には、補助金のスケジュールを把握したうえで、前年のうちに逆算して事業計画および投資計画を立てていらっしゃる方もいらっしゃいますが、そのような企業様はまだまだ多くはない印象です。
とにかく「今この投資を行いたい」という事業者様の中には、商機を逃さないためにも、補助金の公募を待たずに投資を進めるほうが良い場合もあるでしょう。
このように、国等のスケジュールに合わせて実行する必要があるというのが、補助金活用において大きなデメリットであると考えます。

煩雑な事務手続きが数年にわたり発生するデメリット

上記のフロー図を見ていただいた通り、補助金のフローは複雑で、補助金をもらう前と、もらった後も、複雑な事務手続きが何度も登場します。
自社の手続きは煩雑になるだけならまだしも、補助金を利用するためには各種証憑が必要となるため、発注先などに従来の取引では必要としていなかった書類を作成してもらうこともあります。
そのため、私は活用をご希望されるお客様には、「そういった煩雑な手続きが必要になることを考えても、補助金を受けることはコスパが良いと考えるか」を判断基準としていただいています。

税金を源泉とする以上仕方がないとはいえ、とにかくめんどくさい。
この点も補助金利用におけるデメリットであると言えます。

おわりに

補助金は中小企業にとって非常に役立つ公的施策でありますが、一方で税金を源泉とするだめ、利用においては複雑なルールを守る必要があります。
とはいえ、メリットが大きいことは間違いありません。これも私が常々事業者様にお伝えしていることですが「知ったうえで使わないことは良いけれど、知らずに使わないのはもったいない」と思っています。
近年ではメーカーやベンダーなどからも補助金の提案を受けることもあるかと思います。
その際には、ぜひ「安く買える」ということだけに意識を向けるのではなく、デメリットも理解したうえで判断を行っていただければ幸いです。

中小企業診断士。 補助金の申請支援や融資に関する相談など、中小企業のお金に関するお悩みの解決に尽力しています。国の施策はとにかく複雑なものが多いですが、1件1件について常により良い結果を目指し、わかりやすくをモットーに、全力で事業者様をご支援しております。