2026年3月に省力化投資補助金(一般型)の第6回公募要領が改訂され、いくつかの変更が行われました。

そのなかに、医療・介護分野の事業者にとって関係する変更があります。
以前の公募要領には「診療報酬・介護報酬との重複がある事業は補助対象外」という規定があり、個人開業医を含む医療・介護関係の事業者は申請しにくい状況が続いていました。この規定が撤廃されています。

ただし、手放しに「申請できるようになった」と言えるほどシンプルではありません。
公募要領には「医療法人は補助対象外」と明記されており、個人事業主として開業している場合とそうでない場合で状況が大きく異なります。

当事務所では歯科診療所の設備投資支援の経験も複数あります。CTスキャナ・ミリングマシン・口腔内スキャナといった設備の導入相談をいただくことも多く、この変更がどう影響するかをきちんと整理しておきたいと思います。

この記事でわかること
  • 省力化投資補助金(一般型)とはどのような制度か
  • 診療報酬・介護報酬の重複禁止規定が撤廃された経緯
  • 医療法人は対象外・個人開業医は要件次第という整理
  • 法人成りのタイミングと補助金返還リスク
  • その他の主な制度変更点

省力化投資補助金(一般型)とは

省力化投資補助金(一般型)は、人手不足に悩む中小企業等がIoT・ロボットなどデジタル技術を活用したオーダーメイド性のある設備を導入するための費用の一部を補助する国の制度です。
独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が実施しています。

項目内容
補助上限額従業員5人以下:750万円〜101人以上:8,000万円(大幅賃上げ特例適用時は最大1億円)
補助率中小企業:1/2(賃上げ特例適用時2/3)、小規模事業者:2/3
対象設備オーダーメイド性のある設備(ICT・IoT・AI・ロボット等を活用した専用設備等)のほか、高い省力化効果を得られる汎用設備の組み合わせ
事業実施期間交付決定日から18か月以内

同じ省力化投資補助金に「カタログ注文型」がありますが、一般型はカタログに掲載されていない独自性のある仕様の設備・システムを導入する際に活用できる枠です。
審査項目が多く申請のハードル高めですが、事業課題に即した設備投資を柔軟に計画できます。

補助金は事業のなりたい姿を実現するためのサポートツールです。「補助金が採れそうだから設備を導入しよう」ではなく、「この課題を解決するために設備投資が必要で、そこに補助金を活用できる」という順番で考えることが大切です。

以前の規定:診療報酬・介護報酬との重複が申請の壁だった

改訂前の公募要領には、補助対象外となる事業として以下のような規定がありました。

国の他の助成制度との重複を含む事業を申請する事業者のうち、補助対象経費が重複している事業、公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬、固定価格買取制度等との重複がある事業は補助対象となりません。

(改訂前の公募要領より)

この「診療報酬・介護報酬との重複」という文言により、歯科医院・クリニック・介護施設など診療報酬や介護報酬を受ける事業者は申請が難しい状況にありました。

制度変更の内容:重複禁止の規定から診療報酬・介護報酬が除外された

改訂後の公募要領では、同条項が以下のように変わっています。

(過去又は現在の)国(独立行政法人等を含む)が助成する制度との重複を含む事業を申請する事業者のうち、固定価格買取制度等(公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬は除く)や、国の補助金と補助対象経費が重複する事業は補助対象となりません。

(改訂後の公募要領より)

「診療報酬・介護報酬は除く」という文言が追加され、これを理由とした補助対象外の規定が撤廃されました。重複禁止の範囲が整理されたことで、診療報酬・介護報酬を受けていること自体は申請の障壁ではなくなっています。

省力化投資補助金はそもそも「人手不足対策」を目的とした制度です。医療・介護分野の人手不足は他産業以上に深刻であることは広く知られており、「人手不足対策の補助金なのに、人手不足が最も深刻な分野が申請できない」という矛盾が今回解消されたものかと思われます。

ただし:医療法人は補助対象者として明示的に対象外

ここが重要なポイントです。診療報酬の除外規定が撤廃されたとはいえ、公募要領の「補助対象者」の項目に「医療法人は補助対象となりません」と明記されています。

該当しない組合や財団法人(公益・一般)、社団法人(公益・一般)、医療法人及び法人格のない任意団体は補助対象となりません。

(公募要領「2-1. 補助対象者 イ【中小企業者(組合関連)】」より)

診療報酬・介護報酬の重複禁止規定の撤廃と、医療法人が補助対象者から除かれていることは、別の話です。整理すると以下のようになります。

開業形態申請の可否備考
医療法人対象外公募要領に明示。診療報酬規定の撤廃とは無関係
個人事業主(個人開業医)要件を満たせば申請可業種・従業員数の要件を確認する必要あり
社会福祉法人(介護施設等)条件付きで申請可従業員300人以下かつ収益事業の範囲内での補助事業であること

個人開業医が申請を検討する際の注意点:法人成りのタイミング

個人事業主として開業されている方が申請を検討する場合、特に注意が必要なのが法人成りのタイミングです。

公募要領には、補助対象外となる事業者として以下の規定があります。

応募以降に 2-1.補助対象者 ア~カのいずれの要件も満たさなくなった事業者

(公募要領「2-2. 補助対象外となる事業者」より)

つまり、個人事業主として申請・採択を受けた後に医療法人へ法人成りすると、補助対象者の要件を満たさなくなり、残存簿価相当額を限度に補助金返還を求められるリスクがあります。

法人成りを検討中の個人開業医が補助金申請を考える場合の確認事項
  • 設備の処分制限期間が終了するまで、個人事業主の状態を維持できるか
  • 補助金の活用と法人成りのどちらを優先するか、顧問税理士等とも相談して判断する

その他の主な制度変更点

汎用設備の単体導入が補助対象外として明示された

「汎用設備・パッケージソフト等のオーダーメイド性のない設備・システムを単体で導入する事業」が、補助対象外として公募要領に明記されました。これまでもそのように判断できる内容ではありましたが、より誰にでも分かりやすく明記したものと考えられます。
複数の汎用設備を組み合わせてより高い省力化効果を生み出す場合は対象となる余地がありますので、「汎用品=申請できない」と諦めないようにしましょう。

投資回収期間の計算式に「年間稼働日数」が追加された

変更前の計算式は「投資額÷(削減工数×人件費単価+増加した付加価値額)」でしたが、変更後は「削減工数×年間稼働日数×人件費単価」となりました。

観光庁補助金との重複禁止規定が新設された

観光庁の省力化関連補助金の交付決定を受けた場合、その交付決定から10か月間は本補助金に申請できない規定が追加されました。旅館・ホテル・観光施設などは注意が必要です。

まとめ

今回の制度変更で、診療報酬・介護報酬との重複を理由とした申請除外規定は撤廃されました。ただし医療法人は補助対象者として明示的に対象外であり、個人開業医であっても法人成りのタイミングによっては返還リスクが生じます。

「制度が変わった」という情報だけで動くと思わぬリスクを抱えることがあります。自身の状況(法人格・法人成りの予定・補助事業のスケジュール)を整理したうえで、慎重に検討することをお勧めします。

当事務所では、補助金を活用すべきかどうかの判断も含めた支援を行っています。歯科医院・クリニック・介護施設からのご相談もお気軽にどうぞ。

省力化投資補助金の申請をご検討の方へ

当事務所(認定経営革新等支援機関)では、補助金の申請に関する伴走支援を行っています。歯科医院を含む多業種での支援実績があります。

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よくある質問

Q
医療法人格の歯科医院は申請できませんか?
A

現行の公募要領では、医療法人は補助対象者として明示的に除外されています。診療報酬・介護報酬の重複禁止規定の撤廃とは別の問題です。個人事業主として開業されている場合は要件を満たせる可能性があります。

Q
個人開業医として申請後に法人成りすると、補助金を返還しなければなりませんか?
A

処分制限期間中に医療法人へ法人成りすると、補助対象者の要件を満たさなくなるため、一部補助金返還を求められるリスクがあります。法人成りと補助金申請のスケジュールは、顧問税理士等とも相談のうえ慎重に整理することをお勧めします。

Q
一般型とカタログ注文型はどう違いますか?
A

カタログ注文型は国が省力化効果を認めた製品カタログから選んで申請する枠で、手続きが比較的シンプルです。一般型はカタログにない独自仕様のオーダーメイド設備を導入する枠で、審査項目が多い分ハードルは高めです。まずカタログを確認し、対象製品がなければ一般型を検討する流れが基本です。

Q
補助対象となる設備はどのようなものですか?
A

事業者の業務に応じて専用で設計・構築されたオーダーメイド設備が対象です。市販の汎用設備を1台そのまま購入するだけでは対象になりません。複数の設備・システムを組み合わせて自社・自院の業務プロセスに合わせた省力化を実現する計画であることが求められます。

Q
補助金を使うべきかどうか判断できません。
A

補助金はあくまで設備投資を後押しするツールです。投資の必要性・資金計画・賃上げ要件の達成可能性・法人格や法人成りの予定など、複数の要素を整理したうえで判断することが大切です。認定支援機関に相談しながら進めることをお勧めします。