この記事のポイント
- PMI(Post Merger Integration)とは、事業承継やM&A成立後の経営統合プロセスを指す
- PMIという言葉は最近普及したが、実際の統合作業自体は従来から行われてきた
- 中小企業庁が「中小PMIガイドライン」を策定し、体系的に進める手順が整理されたことで、特別なものではなく身近な取り組みとして認識できるようになった
PMIとは何か?
近年、中小企業の事業承継やM&Aの件数は増加傾向にあり、経営者の高齢化を背景に今後さらに加速すると考えられます。その際にしばしば誤解されるのが、「M&Aの成約=ゴール」という認識です。実際には、譲渡契約が締結された時点はあくまでスタートに過ぎず、その後の経営統合プロセスが極めて重要となります。この統合プロセスを「PMI(Post Merger Integration)」と呼びます。
目次
PMIとは、買収や事業承継後に、譲渡企業と譲受企業の経営資源を円滑に統合し、シナジー効果を最大化するための取り組み全般を指します。統合の対象は、経営方針やガバナンス体制の整備だけでなく、人材・組織文化の融合、業務プロセスやITシステムの統一、取引先や顧客との関係維持にまで及びます。つまり、PMIは「数字の上で企業をまとめる」だけでなく、「人と組織をつなぎ直す」ことが本質だといえます。
なぜ最近注目されているのか?
もっとも、「PMI」という言葉が登場したのは比較的最近のことです。しかし実際には、統合作業自体はこれまでも現場で行われてきました。たとえば後継者が新しい経営方針を示し、従業員との信頼関係を築き直したり、経理や人事の仕組みを整理したりする作業は、まさにPMIそのものです。ただし従来は、こうした取組みを体系的に「PMI」と呼んだり、明確な手順書に基づいて進めたりすることは少なく、結果として属人的な対応に終始することが多かったのです。
そこで中小企業庁は「中小PMIガイドライン」を策定し、事業承継・M&A後の経営統合を円滑に進めるための標準的な手引きを示しました。同ガイドラインでは、①経営者・従業員・取引先などのステークホルダーとの信頼関係構築、②経営管理体制の整備、③業務・システムの統合、といった観点から統合のステップや留意点を整理しています。
これにより、PMIが「一部の専門家だけが扱う特別な作業」ではなく、実は中小企業にとっても身近で取り組むべき重要課題であることが明確になりました。
診断士として現場を支援する立場から見ると、PMIは単なる事務的な統合作業ではなく、「未来の経営をどう描くか」という戦略的な営みでもあります。財務や組織、人材育成といった専門知識を活かしながら、承継後の新しいビジョンを社内外に共有し、共感を得ていくプロセスそのものがPMIです。
事業承継を単なる「経営者の交代」で終わらせず、「次の成長に向けた経営統合」として成功に導くために、PMIの重要性は今後ますます高まるでしょう。