「補助金が出るから投資しよう」ではなく、「この投資がしたい。その支援として補助金を使おう」。
この順番の違いが、実は補助金の採否に大きく影響します。
本記事では、「なりたい姿」を起点にした経営が、なぜ結果的に補助金にも強くなるのか、その仕組みを中小企業診断士の視点からお伝えします。
補助金を検討中の方にも、支援機関選びで迷っている方にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。
「補助金ありき」で考えると失敗する理由
補助金は中小企業にとって心強い支援制度です。
設備投資や新たな取り組みに要するコストを国や自治体が一部負担してくれるため、うまく活用すれば事業の前進を大きく後押しします。
ところが、補助金の活用で失敗したり、採択されなかったりする会社には、ある共通した入り口があります。
それが「補助金ありきで考え始める」というアプローチです。
補助金に合わせて投資内容を変えてしまう
「補助金が使えるなら、もともと予定していなかった設備も入れてみようか」
こういった判断が生まれやすいのが、補助金ありきの思考パターンです。
補助金の対象要件に合わせて投資計画を変えてしまうと、本来必要だったものと異なる設備を導入することになります。
その結果、「設備を入れたけれど、現場でうまく使えない」「期待していた効果が出なかった」という事態が生じます。
補助金はあくまでも「すでにやりたいことを後押しする制度」です。
補助金を起点に「やること」を決めるのは、順番が逆になっています。
不採択だったときに投資そのものが止まる
「補助金が採択されたら設備を入れよう」という条件つきで計画を進めていると、不採択になったとき、投資そのものが止まってしまいます。
しかし、その設備投資が本当に自社に必要なものだったとしたら、どうでしょうか。
採択・不採択という外部の判断に、自社の経営投資が左右されてしまっていることになります。
補助金への依存度が高くなるほど、経営の主体性は失われていきます。
「補助金がなければやらない」という投資は、本当に必要な投資なのかを改めて問い直してみることが大切です。
審査員に「本気度」が伝わらない
補助金の審査では、申請事業者が「本当にこの事業に取り組む意志があるか」を確認しようとしています。審査員は毎年多くの事業計画書を読んでいるプロです。
補助金を先に決めて、後から計画を当てはめた事業計画書は、読み手にその「作り感」が伝わります。
補助金の採択件数が限られている中で、同じ土俵で戦う他社と比べたとき、経営者自身の意志や事業への本気度が感じられない計画は、採択から遠ざかります。
「この投資は補助金がなくてもやる」という覚悟のある事業計画は、それだけで説得力が違います。
補助金に強い会社の3つの共通点
中小企業診断士として多くの補助金申請に関わってきた経験から、採択される会社には明らかな共通点があります。
それは、「補助金」の前に「経営」がある、ということです。
共通点① 補助金がなくてもやると決めている投資がある
採択される会社は、補助金の公募が始まる前から「これをやる」と決めている投資があります。
そのうえで「この投資に補助金を活用できないか」という視点で補助金を探しています。
この順番で考えているため、事業計画書には「なぜこの投資が必要か」という背景と根拠が自然に書き込まれています。
審査員にとっては、読んでいて「この会社は本当にこれをやりたいんだ」と伝わる計画書になっているのです。
「補助金があるからやる」ではなく「この投資が必要だから、補助金も活用したい」という姿勢が、審査員に伝わる事業計画書を生み出します。
共通点② 事業の方向性が明確で、言語化されている
補助金の審査で問われるのは、単に「この設備を買いたい」という事実ではなく、「この設備を導入することで、自社の事業がどう変わるのか」という経営上のストーリーです。
採択される会社は、「3年後にどうなりたいか」「そのために何が必要か」というビジョンが、経営者の頭の中だけでなく、言葉として整理されています。
そのビジョンが事業計画書の軸になっているため、読んでいて一貫性のある計画になっています。
逆に、「なんとなく売上を上げたい」「とりあえず設備を更新したい」という状態のままでは、事業計画書に書くべき「ストーリー」が生まれません。
補助金の申請以前に、「自社はどこへ向かうのか」を整理することが、実は採択への最短ルートになっています。
共通点③ 投資の効果を自社の数字で説明できる
補助金の事業計画書には、投資によってどのような効果が生まれるかを数字で示す箇所があります。この数字の根拠を、自社の実績データや具体的な積算で示せるかどうかが、採択を左右するひとつのポイントです。
「売上が20%アップする見込みです」という記述があっても、その根拠が示されていなければ説得力がありません。
一方で、「現在の生産能力は月○○個。この設備を導入すると、段取り時間が○時間削減でき、月○個まで生産できるようになる。単価○円とすると、月○万円の売上増加が見込める」という説明ができれば、審査員は「この計画は現実的だ」と判断します。
自社の数字を把握し、投資の効果を論理的に示せる会社は、補助金の審査にも強い会社です。
そして、それは補助金申請の有無にかかわらず、経営管理ができている会社の姿でもあります。
「なりたい姿」を起点にした経営計画のつくり方
では、「なりたい姿」を起点にした経営計画とは、どのようにつくればよいのでしょうか。
難しく考える必要はありません。基本的な考え方を整理します。
ゴールから逆算して投資計画を立てる
最初に問うべきは「3年後、自社はどうなっていたいか?」という問いです。
売上規模や従業員数のような数字的な目標でも構いませんし、「地域で一番信頼される○○屋になりたい」というような定性的な姿でも構いません。
大切なのは、その「なりたい姿」を言葉にすることです。
「なりたい姿」が決まったら、次に「そのために今から何が必要か」を考えます。
必要な設備はあるか、人材はどうか、仕組みはどうか——この問いに答えていくと、自然と「投資すべきこと」が見えてきます。
そして、その投資の中で補助金が活用できるものがあれば、申請を検討するという流れになります。
逆算思考の3ステップ
① 3年後の「なりたい姿」を言葉にする
② そのために「今から取り組むべきこと」を整理する
③ 取り組みの中で「補助金が活用できるもの」を探す
計画があるから、補助金も融資も「手段」として使える
「なりたい姿」と「そこへの道筋」が描けていると、補助金と融資のどちらが適しているか、あるいは両方を組み合わせるかという判断も、自分でできるようになります。
補助金は採択まで時間がかかり、採択後も実績報告などの手続きが必要です。
一方、融資は手続きが比較的スムーズで、タイミングを選びやすい。
急いでいる投資は融資で、計画的に進められる投資は補助金でというように、目的に応じて使い分けができます。
これが可能になるのは、「自社はこういう方向へ進む」という経営計画があるからです。
計画のない状態で補助金や融資の話が来ると、どうしても「とりあえず使えそうなものを使う」という判断になってしまいます。
経営の主体性は、計画を持つことで生まれます。
当事務所の支援スタンス
補助金ありきの申請支援は行いません
当事務所(イグナル・コンサルティング)では、「補助金を取ること」を目的とした申請支援は行っていません。
補助金の採否は、経営判断の一部でしかありません。採択されることが最終ゴールになってしまうと、本来の目的である「事業を前に進めること」が後回しになるリスクがあります。
また、「補助金ありき」で計画を作ると、採択後に「事業計画と実態が合わない」「実績報告で困った」という問題が起きやすくなります。
こうした事態は、経営者にとっても、支援する側にとっても、本意ではありません。
「事業のなりたい姿」を実現するためのサポートツールとして補助金を位置づける
当事務所が大切にしているのは、まず「その会社がどうなりたいか」を一緒に整理することです。
「なりたい姿」が描けたら、そこへの道筋を考えます。
設備投資が必要なのか、人材育成が先なのか、仕組みづくりが必要なのか——経営全体を見渡しながら、優先順位を整理します。
そのうえで、取り組みを後押しできる補助金があれば、一緒に申請を検討します。
補助金は、事業のなりたい姿を実現するためのサポートツールです。
補助金を目的にするのではなく、経営の目的を達成するための手段として活用する——この考え方を、当事務所のすべての支援の土台にしています。
当事務所の支援の流れ(概要)
① 経営の現状と「なりたい姿」を対話で整理する
② 必要な取り組みと投資の優先順位を明確にする
③ 活用できる補助金・融資制度を提案する
④ 事業計画書の作成を伴走しながらサポートする
⑤ 採択後の実績報告・事業化報告も必要に応じて随時フォローする
まとめ ― 補助金は「経営を加速する燃料」、目的地ではない
補助金は、事業の取り組みを力強く後押しする制度です。うまく活用すれば、本来10年かかる投資を5年で実現できることもあります。
ただし、補助金はあくまでも「燃料」です。目的地が定まっていなければ、燃料をいくら積んでも、どこへも向かえません。
本記事でお伝えしてきたことを整理します。
- 「補助金ありき」で考え始めると、投資の目的がブレやすくなる
- 審査員が見ているのは、事業への「本気度」と「計画の一貫性」
- 採択される会社は、補助金がなくてもやると決めている投資を持っている
- 「なりたい姿」を起点にした経営計画があると、補助金も融資も正しい手段として使える
「自社はどこへ向かうのか」。この問いに向き合うことが、補助金活用の第一歩であり、経営そのものの第一歩でもあります。
補助金の活用を検討されている方、あるいは「補助金ありきになっていないか」と感じている方は、ぜひ一度、事業の「なりたい姿」から対話できる専門家への相談を検討されてみてください。
よくある質問(FAQ)
- Q補助金ありきで考えてはいけないのですか?
- A
ダメというわけではありませんが、リスクがあります。補助金を先に決めてしまうと、投資内容が補助金の要件に引っ張られてしまいがちです。また、不採択になったときに投資計画全体が止まる可能性があります。まず「やりたいこと・必要なこと」を整理したうえで、それに合う補助金を探す順番が理想的です。
- Q経営計画がなくても補助金に申請できますか?
- A
書類上の申請自体は可能です。ただし、補助金の事業計画書には「現状の課題・投資の目的・期待する効果」などを具体的に記載する必要があります。経営の方向性が整理されていないと、これらの記載に一貫性が生まれにくく、審査で不利になる可能性があります。申請前に経営の方向性を整理しておくことが、採択への近道です。
- Q「なりたい姿」が漠然としていても相談できますか?
- A
はい、ぜひご相談ください。「なんとなくこうなりたい」という段階からでも、対話を通じて整理していくことができます。当事務所では、補助金の申請支援の前段として、経営の現状整理やビジョンの言語化からお手伝いすることも行っています。お気軽にお問い合わせください。
- Q補助金が採択されなかった場合、投資を諦めるべきですか?
- A
その投資が本当に自社に必要なものであれば、補助金なしでも実行する価値があるかどうかを検討してください。融資を活用する、次の公募回に再申請する、投資規模を見直すなど、選択肢は複数あります。「補助金が採択されたらやる」という条件をつけず、「この投資はやるべきか」という本質的な判断を優先することが大切です。
- Q補助金の最新の公募情報はどこで確認できますか?
- A
中小企業庁の「ミラサポplus(https://mirasapo-plus.go.jp/)」では、国・自治体の補助金・助成金情報を一括して検索できます。各補助金の公式サイトや、都道府県・商工会議所の窓口でも情報を確認できます。補助金の公募スケジュールは年度によって変わることがありますので、最新情報を随時確認することをおすすめします。
