M&Aの手法として事業譲渡を選択した場合、許認可は原則として買い手側が新たに取得し直す必要があります。
許認可の再取得には時間も手間もかかるうえ、取得が完了するまで事業を営めないリスクもあります。
特に建設業や運送業のように許認可が事業の根幹に関わる業種では、これがM&Aの大きな障壁になっていました。

しかし、経営力向上計画の認定を受けることで利用できる「許認可承継の特例」を活用すれば、一定の業種について事業譲渡であっても許認可を引き継ぐことが可能です。

本記事では、この許認可承継の特例の対象業種、手続きの流れ、注意点、そしてあわせて知っておきたい関連制度をわかりやすく解説します。

事業譲渡と許認可 ― なぜ「取り直し」が必要なのか

M&Aの手法によって許認可の扱いが異なる

M&Aにはさまざまな手法がありますが、許認可の扱いは手法によって大きく異なります。

M&Aの手法許認可の扱い
株式譲渡法人格が変わらないため、原則として許認可はそのまま維持される
合併(吸収合併)原則として存続会社に承継される(業法により手続きが必要な場合あり)
会社分割業法によって承継可否が異なる。新設分割の場合は再取得が必要なケースが多い
事業譲渡原則として再取得が必要

事業譲渡は、会社の事業の全部または一部を他の会社に譲り渡す手法です。
株式譲渡と異なり、法人格は引き継がれないため、買い手側は新たに許認可を取得し直す必要があるのが原則です。

許認可の再取得が事業承継の障壁になるケース

許認可の再取得には、申請から取得までに数週間から数か月かかることがあります。
その間、買い手側は該当する事業を営むことができません。

たとえば建設業許可の場合、経営業務の管理責任者や専任技術者の配置が必要であり、要件を満たすための準備に時間がかかります。
運送業の許可(一般貨物自動車運送事業等)も、再取得の手続きは簡単ではありません。

こうした事情から、許認可が必要な業種では「株式譲渡のほうがスムーズ」として、事業譲渡が選択肢から外されることも少なくありませんでした。
しかし、事業譲渡には「必要な事業だけを選んで譲り受けられる」「簿外債務を引き継がない」といった固有のメリットがあります。
許認可の問題さえ解決できれば、事業譲渡がベストな選択になるケースも多いと考えられます。

経営力向上計画の「許認可承継の特例」とは

制度の概要

中小企業等経営強化法では、経営力向上計画に事業承継等を含めて認定を受け、その計画に従って事業譲渡を行う場合に、一定の許認可について承継元の事業者の地位をそのまま引き継ぐことができる特例が設けられています。

つまり、買い手側が許認可を新たに取得し直す必要がなくなり、事業譲渡の実行とほぼ同時に許認可事業を継続できるようになります。

対象となる6種類の許認可

許認可承継の特例が認められている許認可は、以下の6種類です。

許認可の種類根拠法該当する業種の例
旅館業旅館業法ホテル、旅館、民宿
建設業建設業法建設会社(一般・特定建設業)
火薬類製造業・火薬類販売業火薬類取締法火薬・爆薬の製造、販売
一般旅客自動車運送事業道路運送法バス、タクシー
一般貨物自動車運送事業貨物自動車運送事業法トラック運送会社
一般ガス導管事業ガス事業法ガス導管事業者
ポイント

上記の6種類以外の許認可(たとえば飲食業の食品衛生法に基づく営業許可、産業廃棄物処理業の許可、医療関連の許認可等)は、この特例の対象外です。
対象外の許認可が必要な業種でM&Aを行う場合は、別の手法(株式譲渡等)を検討するか、再取得のスケジュールを事前に確認する必要があります。

中小企業のM&Aで特にインパクトが大きい業種

建設業 ― 許可番号・経審の結果も引き継げるか

建設業は中小企業のM&Aが活発な業種の一つです。
建設業許可は法人格に紐づいているため、株式譲渡であれば原則として維持されますが、事業譲渡の場合は再取得が原則でした。

なお、建設業に関しては、令和2年10月の建設業法改正により、事業譲渡・合併・分割についても「事前認可」を受けることで許可業者としての地位を引き継げる制度が別途整備されています。
この建設業法上の承継制度では、建設業許可番号や経営事項審査の結果なども引き継ぐことが可能です。

経営力向上計画の許認可承継の特例と、建設業法上の承継制度はそれぞれ別の仕組みですので、建設業のM&Aをお考えの場合は、どちらの制度が自社の状況に合っているかを確認されることをおすすめします。いずれにしても、事前の行政庁への相談が不可欠です。

運送業 ― 事業譲渡のハードルが下がる

一般貨物自動車運送事業の許可は取得要件が厳しく、新規での取得には相当の時間と準備が必要です。
後継者不在の運送会社の事業を引き継ぎたい場合でも、許可の再取得がネックとなって事業譲渡を断念するケースがありました。

許認可承継の特例を活用すれば、事業譲渡でも許可を引き継ぐことが可能になるため、運送業のM&Aにおいて事業譲渡を選択肢に含めやすくなります。

旅館業 ― 施設と許可の一体的な承継

旅館業の許可は施設の設備基準や衛生管理者の配置とも関係するため、再取得の際に施設の再審査が必要になることがあります。
経営力向上計画の特例を活用することで、施設と許可を一体的に承継し、事業の空白期間を最小限に抑えることが可能になります。

許認可承継の特例を利用するための手続きの流れ

ステップ内容注意点
1対象となる許認可の所管行政庁への事前相談経営力向上計画の申請前に行う。承継可否の確認が必要
2事業譲渡の基本合意当事者間で基本的な合意に至る
3経営力向上計画の策定・申請事業承継等に関する事項を計画に記載。許認可特例の利用を明記
4主務大臣の認定通常の30日に加え、許認可の所管行政庁の評価・判断に追加日数が必要
5事業譲渡の実行認定後に実行する(認定前の実行は特例の適用不可)
6計画認定を行った省庁への報告事業譲渡後、遅滞なく報告が必要

重要な注意点:

重要な注意点
  • ステップ1〜4は、事業譲渡の実行前に完了させる必要があります。事後では特例を利用できません。
  • 事業譲渡側・事業承継側のどちらかが大企業の場合は対象外です。中小企業同士のM&Aが対象です。
  • 許認可の所管行政庁への事前相談は必須です。相談なしに計画を申請しても、スムーズに進まない可能性があります。

あわせて知っておきたい関連制度

免責的債務引受の特例

経営力向上計画のもう一つの法的支援として、事業譲渡の際の「免責的債務引受の特例」があります。

通常、事業譲渡で債務を移転するには、債権者から個別に同意を得る必要があります。
しかし、経営力向上計画の認定を受けた場合、事業を引き継ぐ側が債権者に対して通知(催告)を行い、1か月以内に異議がなければ債権者の同意があったものとみなすことができます。

この特例により、多数の債権者がいる場合でも、簡略な手続きで債務の移転を行えるようになります。

組合の発起人数に関する特例

協同組合等を設立する際、通常は一定数以上の発起人が必要ですが、経営力向上計画の認定を受けている場合は、発起人3人でも設立認可を受けられる特例があります。
組合を活用した事業再編を検討する場合に有効です。

不動産取得税の軽減・準備金との併用

許認可承継の特例は、同じ経営力向上計画の中で、不動産取得税の軽減措置や中小企業事業再編投資損失準備金と組み合わせて活用することが可能です。
M&A・事業承継に関する経営力向上計画のメリットを最大限に活かすためには、計画策定の段階から複数の支援措置を視野に入れて検討することが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q
許認可承継の特例を使うと、許可番号や実績もそのまま引き継がれますか?
A

経営力向上計画の許認可承継の特例では、許認可に係る「地位」をそのまま引き継ぐことができます。ただし、許可番号や経営事項審査の結果の引き継ぎについては、業法ごとの取り扱いが異なります。建設業の場合は、建設業法上の承継制度(事前認可)を利用するほうが、許可番号や経審結果を含めた包括的な承継が可能です。具体的な取り扱いは、事前に所管行政庁にご確認ください。

Q
飲食店の営業許可はこの特例で引き継げますか?
A

いいえ。食品衛生法に基づく飲食店の営業許可は、許認可承継の特例の対象外です。飲食店の事業譲渡を行う場合は、買い手側が新たに保健所で営業許可を取得する必要があります。ただし、飲食店の場合は株式譲渡であれば許認可を引き継ぐことができますので、M&Aの手法を選ぶ際に考慮してください。

Q
個人事業主から法人への事業譲渡でも利用できますか?
A

経営力向上計画の対象は中小企業者等です。個人事業主(常時使用する従業員1,000人以下)も対象に含まれますので、個人から法人への事業譲渡においても、要件を満たせば特例の利用が可能です。ただし、許認可の所管行政庁への事前相談は必ず行ってください。

Q
経営力向上計画の策定は自分でできますか?
A

計画の策定自体は事業者ご自身でも可能です。許認可承継の特例を利用する場合は手続きが複雑になるため、認定経営革新等支援機関(中小企業診断士事務所、税理士事務所等)のサポートを受けることもおすすめです。許認可の所管行政庁との調整や、M&A全体のスケジュール管理を含めて、専門家と連携して進めることが成功の鍵です。

まとめ ― 許認可の問題を乗り越えて、最適なM&Aを実現する

許認可の取り直しは、事業譲渡によるM&Aの大きなハードルの一つでした。
しかし、経営力向上計画の許認可承継の特例を活用すれば、建設業・運送業・旅館業など6業種については、このハードルを乗り越えることができます。

大切なのは、M&Aの検討段階から許認可の問題を意識し、早めに準備を始めることです。
所管行政庁への事前相談、経営力向上計画の策定、認定取得——。
これらはすべて事業譲渡の実行前に完了させる必要があります。

当事務所では、M&A・事業承継に関するコラムシリーズを公開しているほか、経営力向上計画の策定支援も行っています。