「経営力向上計画」は、設備投資の税制優遇を受けるための制度。
そう認識している方が多いのではないでしょうか。
たしかに、即時償却や税額控除が受けられる中小企業経営強化税制は大きな魅力です。
しかし、経営力向上計画のメリットは税制優遇だけにとどまりません。
金融支援、補助金の加点、事業承継時の税負担軽減、そして自社の経営を見つめ直すきっかけ。
この計画を「単なる書類」で終わらせず、経営に活かすことで、中小企業の成長を後押しする強力なツールになります。
本記事では、経営力向上計画の全体像と、中小企業が認定を受けることで得られる5つのメリットを、わかりやすく解説します。
経営力向上計画とは何か
制度の基本的な仕組み
経営力向上計画とは、中小企業等経営強化法に基づく認定制度です。
中小企業・小規模事業者が、人材育成、コスト管理、設備投資といった経営力向上のための取り組みを計画にまとめ、国(事業分野の主務大臣)から認定を受けることで、さまざまな支援措置を利用できるようになります。
ここで大切なのは、経営力向上計画は「補助金」ではないという点です。
計画を認定してもらうこと自体にお金がかかるわけではなく、認定を受けたからといって直接お金がもらえるわけでもありません。
認定を受けることで、税制優遇や金融支援といった各種の「支援措置」を利用する資格が得られる。
そういう仕組みです。
対象となる事業者
経営力向上計画の認定を受けられるのは、主に以下のいずれかに該当する事業者です。
| 区分 | 要件 |
|---|---|
| 法人 | 資本金または出資金が1億円以下 |
| 資本金を有しない法人 | 常時使用する従業員数が1,000人以下 |
| 個人事業主 | 常時使用する従業員数が1,000人以下 |
| 協同組合等 | 中小企業等経営強化法に定める組合等 |
多くの中小企業・小規模事業者が対象になります。業種の制限も特になく、製造業、建設業、サービス業、小売業、飲食業など幅広い業種で活用されています。
注意:大規模法人(資本金1億円超等)の子会社や、いわゆる「みなし大企業」は対象外となる場合があります。また、税制優遇を受ける場合は、青色申告書を提出していることも条件です。自社が対象になるかどうか不安な場合は、事前に専門家へ確認されることをおすすめします。
他の計画認定制度との違い
中小企業向けの計画認定制度としては、「経営革新計画」や「事業継続力強化計画」なども存在します。
これらとの大きな違いは、経営力向上計画が比較的簡潔な計画で認定を受けられることと、税制優遇(中小企業経営強化税制)を受けるための唯一の入口であることです。
経営革新計画は新たな事業活動を行う計画を詳細に策定する必要がありますが、経営力向上計画は現在の事業の延長線上にある経営改善の取り組みを計画に落とし込むものです。
そのため、「うちの会社で新しいことを始めるわけではないけれど、設備投資はしたい」という場合に活用しやすい制度と言えます。
メリット①:設備投資の税負担を軽減できる(中小企業経営強化税制)
即時償却と税額控除、2つの選択肢
経営力向上計画の最大の注目ポイントは、中小企業経営強化税制による税制優遇です。
認定を受けた計画に基づいて対象設備を取得した場合、以下のいずれかを選択できます。
| 優遇措置 | 内容 |
|---|---|
| 即時償却 | 設備の取得価額を、取得した事業年度に全額経費として計上できる |
| 税額控除 | 取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を法人税から控除 |
たとえば、1,000万円の機械装置を購入した場合、通常であれば法定耐用年数に応じて数年にわたって減価償却していきます。しかし即時償却を選べば、その1,000万円を初年度に一括して経費にできるため、その年の法人税負担を大きく軽減できます。
一方、税額控除を選んだ場合は、取得価額の10%にあたる100万円を法人税額から直接差し引くことができます。どちらが有利かは、その会社の利益の状況や資金繰りによって異なりますので、税理士にご相談ください。
対象となる設備の類型
中小企業経営強化税制では、設備の目的に応じて複数の類型が設けられています。
| 類型 | 名称 | 概要 |
|---|---|---|
| A類型 | 生産性向上設備 | 旧モデルと比べ生産効率等が年平均1%以上向上する設備。工業会の証明書が必要 |
| B類型 | 収益力強化設備 | 年平均の投資利益率が7%以上見込まれる設備。経済産業局の確認書が必要 |
| D類型 | 経営資源集約化設備 | M&A後の経営統合に資する設備。経済産業局の確認書が必要 |
| E類型 | 経営規模拡大設備 | 売上高100億円超を目指す企業向けの拡充措置(適用企業は限定的) |
多くの中小企業にとって利用しやすいのは、A類型(生産性向上設備)です。
A類型では、設備メーカーが工業会に申請して証明書を取得してくれるため、事業者側の手続き負担が比較的少なく済みます。
機械装置(取得価額160万円以上)、器具備品(30万円以上)、建物附属設備(60万円以上)、ソフトウェア(70万円以上)などが対象です。
ポイント:中小企業経営強化税制の適用期限は、令和7年度の税制改正により2027年3月31日まで延長されています。ただし、これは「設備を取得して事業に使い始める」期限であり、計画の認定にも時間がかかりますので、余裕を持ったスケジュール管理が必要です。
税制優遇を受けるための注意点
税制優遇を受けるうえで特に注意していただきたいのは、設備の取得前に計画の認定を受ける必要があるという点です。
先に設備を購入してしまうと、原則として税制優遇の適用を受けられません(例外として、取得後60日以内に計画が受理される場合もあります)。
また、工業会の証明書(A類型の場合)の取得にも一定の時間がかかります。
計画の認定自体も、書類に不備がなければ約30日程度が目安です。
設備の導入時期から逆算して、早めに準備を始めることが大切です。
メリット②:金融支援を受けられる
日本政策金融公庫の低利融資
経営力向上計画の認定を受けた事業者は、日本政策金融公庫の融資において優遇を受けられる可能性があります。具体的には、計画に基づく設備投資や事業拡大のための資金について、通常よりも低い金利で融資を受けられることがあります。
特に設備投資のための資金調達を検討している場合、融資の金利が少しでも低くなることは、長期的に見れば大きな経費削減につながります。
信用保証の別枠措置
経営力向上計画の認定を受けた事業者は、信用保証協会の保証について、通常の保証枠とは別枠で追加の保証を受けられる場合があります。
これは、すでに信用保証の枠をある程度使っている会社にとって、追加の資金調達の選択肢が広がるという意味で大きなメリットです。
経営力向上計画で受けられる主な金融支援
- 日本政策金融公庫による低利融資
- 信用保証協会の別枠保証
- 中小企業投資育成株式会社からの投資(対象企業の拡大)
これらの金融支援を活用するかどうかに関わらず、経営力向上計画の認定を受けておくことで「国から認定を受けた計画がある」という事実が、金融機関との交渉においてプラスに働く場面もあります。
日頃から金融機関との対話を大切にしている経営者にとっては、自社の経営方針を説明するための有効な材料にもなります。
メリット③:補助金の審査で加点を受けられる
小規模事業者持続化補助金での加点
経営力向上計画の認定を受けていることが、一部の補助金の審査で加点項目として扱われています。代表的なのが「小規模事業者持続化補助金」です。
小規模事業者持続化補助金では、「経営力向上計画加点」として、各受付における基準日までに経営力向上計画の認定を受けている事業者が加点の対象となります。補助金の採択は事業計画の内容で評価されますが、僅差の場合に加点の有無が結果を左右する可能性は十分にあります。
加点のために取得するのではなく、経営改善の結果として活用する
加点を受けられること自体はメリットですが、経営力向上計画の本来の目的は「自社の経営力を向上させるための取り組みを計画にまとめること」です。その計画づくりを通じて自社の経営を見つめ直し、結果として認定を受けたことが補助金の加点にもつながる。
この順番が理想的です。
加点のためだけの形式的な計画では、その後の経営に活かすことが難しくなります。せっかく計画をつくるのであれば、中身のある計画にすることを心がけていただきたいと思います。
メリット④:事業承継時の税負担を軽減できる
不動産取得税の軽減措置
経営力向上計画の認定を受けた事業者が、計画に基づいて合併・会社分割・事業譲渡を通じて他の事業者から事業用資産(不動産を含む)を取得する場合、不動産取得税の軽減措置を受けることができます。
事業承継やM&Aにおいては、事業用の土地や建物の移転に伴って不動産取得税が発生することがあります。特に不動産を多く保有する事業の承継では、この税負担が無視できない金額になる場合もあります。経営力向上計画を活用することで、この負担を軽減できる可能性があるのです。
事業承継等に係る準備金の積み立て(D類型との関連)
また、M&Aなどによる事業再編を行う場合、取得した事業用資産の価格の一定割合を損金算入できる「中小企業事業再編投資損失準備金」の制度もあります。これは、M&A後に想定外の損失が発生した場合に備えるための仕組みです。
事業承継やM&Aをお考えの方は、経営力向上計画の認定と合わせて検討されるとよいでしょう。当事務所では、M&A・PMIに関するコラムシリーズもご用意していますので、あわせてご覧ください。
メリット⑤:経営を見つめ直すきっかけになる
計画策定のプロセスそのものが持つ価値
5つ目のメリットは、目に見える優遇措置ではありません。しかし、実はこれが最も重要かもしれません。
経営力向上計画を策定する過程では、自社の現状分析、課題の整理、目標の設定、そしてそれを達成するための具体的な取り組み内容を言語化する作業が求められます。
この作業は、日々の業務に追われてなかなか取り組めない「経営を俯瞰して考える時間」を持つことにほかなりません。
経営革新計画のような詳細な事業計画書に比べれば、経営力向上計画の記載量は少なく、作成の負担はそれほど大きくありません。
だからこそ、「計画をつくること自体が初めて」という小規模事業者にとって、最初の一歩として取り組みやすい制度でもあります。
経営計画を持つことが、すべての施策活用の土台になる
経営力向上計画の策定を通じて整理した「自社の強み」「課題」「目指す方向性」は、その後の補助金申請、融資相談、さらには日々の経営判断の土台になります。
「うちみたいな小さい会社に経営計画なんて必要ない」
そうお考えの経営者にこそ、経営力向上計画の策定をきっかけに「なりたい姿」を言葉にしてみることをおすすめします。
経営力向上計画の認定を受けるまでの大まかな流れ
経営力向上計画の申請から認定までの大まかなステップは、以下のとおりです。
重要なポイント:税制優遇を受けるためには、原則として設備の取得前に証明書の取得&経営力向上計画の認定を受けておく必要があります。証明書の取得や計画の認定にはそれぞれ時間がかかるため、設備投資を検討し始めた段階で早めに動き出すことが大切です。「設備を買ってから計画をつくればいい」では間に合わない場合があります。
なお、経営力向上計画の策定にあたっては、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)のサポートを受けることができます。中小企業診断士事務所や税理士事務所などが認定支援機関になっているケースが多いため、専門家と一緒に計画をつくることで、より実効性の高い内容にすることができます。
5つのメリットを一覧で整理する
| メリット | 内容 | 特に効果的な場面 |
|---|---|---|
| ①税制優遇 | 即時償却または取得価額の7〜10%の税額控除 | 設備投資を行うとき |
| ②金融支援 | 低利融資、信用保証の別枠措置 | 設備資金の調達が必要なとき |
| ③補助金の加点 | 小規模事業者持続化補助金等で加点対象 | 補助金を申請するとき |
| ④事業承継の税軽減 | 不動産取得税の軽減、準備金の積み立て | M&A・事業承継を行うとき |
| ⑤経営の見える化 | 自社の強み・課題・方向性を言語化できる | 経営の棚卸しをしたいとき |
このように、経営力向上計画は「税制優遇だけの制度」ではありません。
自社の状況に応じて複数のメリットを組み合わせて活用することで、経営全体を前に進める力になります。
よくある質問(FAQ)
- Q経営力向上計画の申請に費用はかかりますか?
- A
計画の認定申請そのものに費用はかかりません。ただし、計画の策定を専門家に依頼する場合は、その報酬が別途発生します。また、税制優遇のための工業会証明書や経済産業局確認書の取得手続きに関しても、基本的には費用はかかりませんが、B類型の場合は投資計画に対する税理士等の事前確認が必要となります。
- Q経営力向上計画は個人事業主でも申請できますか?
- A
はい、常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主も対象です。個人事業主の場合は、法人税ではなく所得税に対して税制優遇が適用されます。
- Q経営力向上計画はどこに申請するのですか?
- A
自社の事業が属する分野の主務大臣に申請します。たとえば製造業であれば経済産業省(地方の経済産業局)、建設業であれば国土交通省(地方整備局)が窓口になります。複数の事業を営んでいる場合は、計画の対象となる事業の所管省庁に申請します。電子申請(経営力向上計画申請プラットフォーム)も利用可能です。
- Q計画の認定にはどのくらい時間がかかりますか?
- A
書類に不備がなければ、申請から認定まで約30日が目安です。電子申請で経済産業部局あてのみの場合は約14日とされています。複数の省庁にまたがる場合は約45日かかることがあります。ただし、税制優遇に必要な証明書類(工業会証明書等)の取得には別途時間がかかるため、全体のスケジュールには余裕を持ってください。
- Qすでに設備を購入してしまった場合でも申請できますか?
- A
原則として、設備の取得前に計画の認定を受ける必要があります。例外として、設備取得後60日以内に計画が受理される場合に事後申請が認められるケースもありますが、申請時に添付する証明書は、設備取得前の日付で証明をうけている必要があります。基本的には、事前の申請を強くおすすめします。
まとめ ― 経営力向上計画は「なりたい姿」への第一歩
経営力向上計画は、税制優遇だけでなく、金融支援、補助金の加点、事業承継時の税軽減、そして経営を見つめ直すきっかけという5つのメリットを持つ制度です。
なかでも大切なのは、計画をつくるプロセスを通じて自社の経営と向き合うことです。「現状はどうなっているか」「これからどうなりたいか」「そのために何が必要か」。
この問いに答えることは、経営力向上計画の策定に限らず、すべての経営判断の土台になります。
当事務所では、補助金ありきの支援は行っていません。経営力向上計画も、あくまで事業のなりたい姿を実現するためのサポートツールの一つとして位置づけています。「計画をつくること」が目的ではなく、「計画をつくった先にある経営の成長」こそが目的です。
設備投資を検討している方、税制優遇に関心がある方、そして「うちの会社でも経営力向上計画を活用できるのだろうか」と考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
経営力向上計画の策定・設備投資に関するご相談
当事務所は認定経営革新等支援機関です。計画の策定から認定取得まで、一貫してサポートいたします。
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- 第1回:経営力向上計画とは?中小企業が認定を受ける5つのメリット(本記事)
- 第2回:経営力向上計画で設備投資の税負担を軽くする方法|即時償却と税額控除の違い・選び方
- 第3回:経営力向上計画は補助金の採択率を上げる?加点と金融支援の活用法
- 第4回:経営力向上計画の書き方と申請の流れ
