東京商工リサーチが行ったアンケートによると、金融機関からの資金調達時の経営者保証について75%の企業が「外したい」としています。しかし、実際には経営者保証を入れないことで保証料率が上昇することや、金融機関に経営者保証の解除を申し出ることにより関係性が悪化することを懸念する企業も多い状況です。
このような中、政府は経営保証に依存しない融資慣行の確立を目指し、2024年3月に「事業者選択型経営者保証非提供制度」を創設しました。
この制度を活用することで、2025年3月末までの保証申込分については、最小+0.1%の保証料を上乗せすることで、経営者保証を提供せずに、信用保証協会の保証をつけることができます。
本記事では、この「事業者選択型経営者保証非提供制度」についてご説明します。
目次
経営者保証とは
経営者保証とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となることをいいます。仮に企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合には、経営者個人が企業に代わって返済することを求められます。
経営者保証には、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もり、さまざまな課題が存在しています。
これらの課題の解決策として、全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドラインを策定し、平成26年2月からその運用が開始されています。
経営者保証ガイドラインの3要件
このガイドラインでは、下記3要件を満たせば、事業者は経営者保証なしで融資を受けられる可能性がある、またはすでに提供している経営者保証を見直すことができる可能性があるとしています。
- 資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている
- 財務基盤が強化されており、法人のみの資産や収益力で返済が可能である
- 金融機関に対し、適時適切に財務情報が開示されている
経営者保証ガイドラインは、あくまで自主的なルールを定めたものですので、金融機関が必ずその要求をのまねばならないといった法的拘束力はありません。そこで、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させ、中小企業の事業の発展を後押しするために政府が創設したのが「事業者選択型経営者保証非提供制度」です。
事業者選択型経営者保証非提供制度とは
事業者選択型経営者保証非提供制度は、信用保証付融資において、一定の要件を備えた中小企業者が保証料率の上乗せを条件として経営者保証を提供しないことを選択できる制度です。
この制度を利用するためには、自社が次にあげる要件のいずれにも該当することが必要です。
- 過去2年間(法人の設立日から2年経過していない場合は、その期間)において貸借対照表、損益計算書等その他財産、損益又は資金繰りの状況を示す書類を当該金融機関の求めに応じて提出していること。
- 直近の決算書において代表者への貸付金等がなく、かつ、代表者への役員報酬、賞与、配当等が社会通念上相当と認められる額を超えていないこと。
- 直近の決算において債務超過ではない(純資産の額がゼロ以上である)こと又は直近2期の決算において減価償却前経常利益が連続して赤字ではないこと。
- 上記1.及び2.については継続的に充足することを誓約する書面を提出していること。
- 中小企業者が保証人の保証を提供しないことを希望していること
保証料率は、通常の保証料率に、上記3番の要件を両方とも満たしている場合は 0.25%、どちらか一方のみを満たしている場合は 0.45%の上乗せを行う(2期分の決算書がない場合は 0.45%の上乗せ)こととなります。
事業者選択型経営者保証非提供制度の当初3年間(2027年3月末まで)の時限措置
国はこの制度の促進を図るために、3年間の時限措置として、この上乗せ保証料について、令和7年3月末までの保証申込分は 0.15%、令和7年4月から令和8年3月までの保証申込分は0.10%、令和8年4月から令和9年3月までの保証申込分は 0.05%に相当する保証料を国が補助するとしています。
つまり、上記3番の要件を両方満たす企業については、2025年3月31日までの申込分については上乗せ保証料率0.25%について国が0.15%を補助するため、差し引き0,1%の上乗せでこの制度を利用できるということになります。
事業者選択型経営者保証非提供制度を利用するための注意点
制度を利用するためには、上記5番にあるように「中小企業者が保証人の保証を提供しないことを希望」する必要があります。ただ待っていてもこの制度を利用することはできませんので、金融機関に融資や借換えを依頼する際に、明確に「経営者保証なしでお願いします」と伝えることが必要です。
さいごに
+0.1%を高いと思うか、それでもいいから外したいと思うかは、企業様によるかと思います。
東京商工リサーチのアンケートでは、中小企業の約40%は上乗せがあっても外したいという結果となっています。経営者保証を外すことで、上乗せ分の利息を上回るような思い切った取り組みを行うことができる、事業承継を進めることができるといったプラスの面も考えられますので、現在融資を検討中の方は、この機会にあらためて経営者保証について再考いただければと思います。
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