「人が採れない。だから機械やシステムでカバーしたい」——この発想自体は間違っていません。
しかし、省力化の設備投資には「正しい順番」があります。
順番を間違えると、高額な設備を入れたのに現場が回らない、という事態になりかねません。
本記事では、中小企業が省力化投資に踏み出す前に整理しておくべきことを、中小企業診断士の実務の視点からお伝えします。
「人手不足=設備投資」は、必ずしも正解ではない
人手不足に悩む中小企業の経営者から「ロボットを入れたい」「自動化の設備を導入したい」というご相談をいただくことがあります。
人手不足を解消するために設備を活用しようという考え方は、方向性としては正しいものです。
しかし、ここで一つ立ち止まって考えていただきたいことがあります。
「本当に、設備を入れれば人手不足は解決するのか?」という問いです。
設備を入れても人手不足が解消しないケースがある
省力化設備を導入したにもかかわらず、思ったほど人手不足が改善しない——そのようなケースは実は珍しくありません。
たとえば、ある工程を自動化したものの、その前後の工程がボトルネックになっていて、全体の生産性が上がらなかったというケースがあります。
あるいは、新しい設備を扱える人材がおらず、結局その設備を動かすために別の人員が必要になったということもあります。
こうした問題が起きるのは、「人手不足」という課題に対して、その原因や構造を十分に分析しないまま「設備の導入」という解決策に飛びついてしまうためです。
まず業務の棚卸しから始める理由
省力化投資を成功させるためには、設備の検討よりも先に、自社の業務を棚卸しすることが重要です。
棚卸しとは、「誰が」「どの業務を」「どれくらいの時間をかけて」行っているのかを見える化する作業のことです。
この作業を通じて、人手不足の原因がどこにあるのか——採用の問題なのか、業務の非効率の問題なのか、あるいは特定の人に作業が集中している問題なのか——が明確になります。
原因が明確になれば、設備投資で解決すべき課題と、設備投資では解決できない課題を切り分けることができます。
この「切り分け」を行うことが、省力化投資を成功に導く第一歩です。
省力化投資を検討するときの正しい順番
省力化投資を成功させている企業には、共通する進め方があります。
それは「いきなり設備を選ばない」ということです。
以下の3つのステップを順番に踏むことで、投資の失敗リスクを大きく下げることができます。
ステップ1 ― 現状の業務フローを可視化する
最初に行うべきことは、現在の業務フローを可視化することです。
「うちの仕事の流れはわかっている」と思っていても、実際に書き出してみると、把握していなかった手待ち時間や重複作業が見つかることがよくあります。
可視化の方法は、特別なツールを使う必要はありません。紙やホワイトボードに、原材料の受入から製品の出荷まで(あるいは、お客様からの注文から納品まで)の流れを書き出すだけでも十分です。
その際、各工程にかかっている時間と、携わっている人数も合わせて書き出しておくと、あとの分析がしやすくなります。
ステップ2 ― 「なくせる作業」と「減らせる作業」を分ける
業務フローを可視化したら、次に、それぞれの作業を以下の3つに分類してみてください。
1つ目は「なくせる作業」です。
そもそも行う必要がなくなっている作業や、慣習で続けているだけの作業がこれにあたります。
2つ目は「減らせる作業」です。
やり方を見直すことで、時間や手間を減らせる作業です。
そして3つ目が「機械やシステムに置き換えるべき作業」です。
重要なのは、この3つの順番で検討を進めることです。
「なくせる作業」は、設備を入れなくてもすぐに人手の負担を軽くできます。
「減らせる作業」は、業務の手順を見直すことで改善できることが多いです。
設備投資が必要になるのは、3つ目の「機械やシステムに置き換えるべき作業」だけです。
この分類をせずにいきなり設備を検討すると、「なくせばよかった作業を自動化してしまう」という、投資効果の低い結果になりかねません。
ステップ3 ― 設備・システムで解決すべき課題を特定する
ステップ2で「機械やシステムに置き換えるべき作業」が明確になったら、いよいよ具体的な設備やシステムの検討に入ります。
このとき大切なのは、「どの設備を入れるか」よりも「何を解決するのか」を先に明確にすることです。「この作業を自動化することで、月間〇〇時間の工数を削減し、その分を△△の業務に充てる」というように、投資の目的と期待する効果を具体的に設定してから設備を選びましょう。
この「目的→効果→設備選定」という順番を守ることが、省力化投資の成否を分ける大きなポイントです。
省力化投資で失敗する会社の共通点
省力化投資がうまくいかなかった企業には、いくつかの共通点が見られます。
ここでは、特に多い2つのパターンをご紹介します。
「導入すること」が目的になってしまう
展示会や営業担当者の説明を聞いて「この設備はよさそうだ」と感じ、そのまま導入を決めてしまうケースがあります。
設備そのものの機能や性能に注目するあまり、「自社のどの課題を解決するために導入するのか」という視点が抜け落ちてしまうのです。
設備の導入はあくまで手段であり、目的ではありません。
導入自体がゴールになってしまうと、「高額な設備を入れたのに、期待したほど効果が出ない」という結果になりやすくなります。
現場の声を聞かずに設備を決める
もう一つよくあるのが、経営者が現場の実態を十分に把握しないまま、トップダウンで設備を決めてしまうケースです。
省力化設備は、最終的に現場の従業員が使うものです。
現場がどのような困りごとを抱えているのか、どの作業に最も負担を感じているのかを把握しないまま設備を選ぶと、導入後に「使いにくい」「そもそもこの作業を自動化してほしかったわけではない」という声が上がることがあります。
設備の検討段階で現場の意見を取り入れることは、投資効果を高めるだけでなく、導入後の定着をスムーズにする効果もあります。
「省力化」と「省人化」の違いを理解する
省力化投資を検討する際に、整理しておきたい概念があります。
それは「省力化」と「省人化」の違いです。
省力化とは ― 一人あたりの作業負担を軽くすること
省力化とは、作業の負担を軽減することを指します。
たとえば、手作業で行っていた検査を半自動化して、作業者の負担を減らすようなケースです。
作業者の数は変わりませんが、一人あたりの労力が減り、作業の質やスピードが向上します。
省人化とは ― 必要な人員そのものを減らすこと
省人化とは、ある工程に必要な人員を減らすことを指します。
たとえば、3人で行っていた工程をロボット導入により1人で対応できるようにするケースです。
こちらは直接的に人手不足の解消につながりますが、設備投資の規模も大きくなる傾向があります。
自社に必要なのはどちらかを見極める
人手不足の解消が目的であっても、すべてのケースで省人化が最適解とは限りません。
「今いる従業員の負担を軽くして、離職を防ぐ」ことが優先すべき課題であれば、省力化のほうが適切な場合もあります。
自社が直面している人手不足の本質が「採用できない」ことなのか、「辞めてしまう」ことなのかによって、必要な投資の方向性は変わります。この見極めが、投資効果を大きく左右します。
投資判断を支える制度の活用も視野に
省力化投資の方向性が固まり、具体的な設備やシステムの候補が見えてきた段階で、投資を後押しする支援制度の活用を検討することをおすすめします。
補助金は投資判断の「後」に検討すべきもの
ここで一つ、大切な考え方をお伝えします。
補助金は「投資をするかどうか」を決めた後に検討すべきものです。
「補助金が出るから投資しよう」ではなく、「この投資はやるべきだと判断した。その支援として補助金を活用しよう」という順番が正しい考え方です。
この順番を守ることで、補助金が不採択だった場合でも「それでもやるべき投資だ」という判断ができます。
逆に、補助金ありきで投資を決めてしまうと、不採択になった瞬間に投資計画が宙に浮いてしまいます。
省力化に関連する主な支援制度
中小企業の省力化投資を支援する制度は複数あります。
たとえば、ものづくり補助金は、革新的な新製品・サービスの開発を行うための設備投資を支援する制度です。
また、省力化投資補助金は、あらかじめカタログに掲載された汎用的な省力化製品の導入を簡易な手続きで支援する枠と、オーダーメイド性の高い設備を支援する枠と、2つの観点から省力化設備の導入を支援しています。
このほかにも、業種や投資内容に応じて活用できる制度があります。
どの制度が自社に合っているかは、投資の目的や規模、実施時期によって異なりますので、検討段階で専門家に相談されることをおすすめします。
※補助金制度は年度ごとに内容が変更される場合があります。最新の公募情報は、中小企業庁の「ミラサポplus」等でご確認ください。
専門家に相談するタイミング
省力化投資について専門家に相談するベストなタイミングは、「業務の棚卸しが終わり、投資の方向性が見えてきた段階」です。
この段階で相談すると、投資の方向性が正しいかどうかの確認、適切な支援制度の選定、事業計画の策定といったサポートを効果的に受けることができます。
「まだ何も決まっていない」という段階でも構いません。
業務の棚卸しの進め方から相談できる専門家を見つけることができれば、投資の検討をよりスムーズに進めることができます。
よくあるご質問
- Q人手不足ですが、設備投資をする資金的な余裕がありません。どうすればよいですか?
- A
まずは設備投資をせずにできる改善から始めることをおすすめします。業務の棚卸しを行い、「なくせる作業」「減らせる作業」を見つけることで、設備投資をしなくても人手の負担を軽減できる場合があります。そのうえで、設備投資が必要と判断した場合は、補助金や融資などの資金調達手段を含めて検討しましょう。
- Q省力化投資の効果は、どのように測ればよいですか?
- A
投資の効果を測るためには、導入前の状態を数字で記録しておくことが重要です。たとえば、「この作業に月間何時間かかっているか」「不良率はどのくらいか」といった指標を事前に把握しておけば、導入後に比較することで効果を客観的に測ることができます。
- Q製造業ではないのですが、省力化投資は関係ありますか?
- A
省力化投資は製造業だけのものではありません。サービス業では予約管理システムや顧客管理システムの導入、小売業ではセルフレジや在庫管理システムの導入なども省力化投資にあたります。業種を問わず、「人が手作業で行っている業務をデジタルや設備の力で効率化する」という考え方は共通です。
- Q補助金を使って省力化設備を入れたいのですが、どの補助金が使えますか?
- A
省力化投資に活用できる補助金は、投資の内容や規模によって異なります。まずは「どのような設備を」「何のために」導入するのかを整理したうえで、最適な制度を選ぶことが大切です。補助金の種類や公募スケジュールは年度によって変わりますので、具体的な検討段階に入ったら、中小企業診断士等の専門家にご相談ください。
まとめ ― 省力化は「戦略」であり、設備はその手段
人手不足の解消を目的とした省力化投資は、中小企業にとって重要な経営判断です。しかし、その判断を正しく行うためには、「設備を入れれば解決する」という思い込みから離れ、正しい順番で検討を進めることが不可欠です。
省力化投資の正しい順番
- 業務フローを可視化する
- 「なくせる作業」「減らせる作業」「置き換えるべき作業」を分類する
- 設備・システムで解決すべき課題を特定する
- 投資の目的と期待効果を明確にしたうえで、設備を選定する
- 必要に応じて、支援制度(補助金等)の活用を検討する
省力化は単なる設備導入ではなく、事業全体を見据えた「戦略」です。
設備はその戦略を実現するための「手段」にすぎません。
「人手不足をなんとかしたい」という思いを、正しい手順で「事業を前に進める投資」に変えていくこと。それが、省力化投資の本来のあり方ではないでしょうか。
省力化投資の進め方でお悩みの方へ
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