はじめに
補助金は、自社の事業の発展や新事業の立ち上げにおいて頼りになる資金調達手段の一つです。しかし、補助金を獲得するには、適切かつ説得力のある事業計画書が必要です。
目次
事業計画書は、補助金申請時以外にも、創業時や融資を受ける際など、さまざまな場面で作成の機会があります。そのため、「事業計画書の作成方法」といった書籍やHow Toなどは世の中に多く存在しますが、それらを参考にして時間をかけて事業計画書を作成しても、なぜかなかなか採択されないという事業者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
もしかするとその事業計画書は、的外れなものになってしまっているかもしれません。というのも、「補助金を獲得するための事業計画書」と「融資を受けるための事業計画書」は異なるからです。
この記事では、補助金の獲得に向けた事業計画書の作成において、私が事業者様をご支援する際に特に重視している3つの必須ポイントを紹介します。
補助金獲得に向けた必須ポイント1:新規性
そもそも補助金とは何なのか
そもそも補助金とは何なのか。ウィキペディアでは下記のように説明しています。
補助金とは、政府が私企業や個人などの民間部門に対して行う一方的な貨幣の給付。中央政府または地方政府が、行政上の目的・効果を達成するために、公共団体・経済団体・企業・私人などに対して、なんら反対給付を受けることなく一方的に支出する現金給付。
ウィキペディア
(実際には補助金は政府だけではなく財団などさまざまな団体も実施していますが、それはさておいて)どの実施団体においても、補助金はただ「困っている人にお金を配ります」という類のものではなく、「自身の目的・効果を達成するために」実施されているということが重要な点です。
例えば経済産業省系であれば、企業の生産性向上やそれに伴う賃上げ、サプライチェーンの強靭化など、各補助金はそれぞれが目的を持っており、いずれも経済の向上を図るために実施されています。
そのため、「融資を受けるための事業計画書」としては素晴らしい計画書であっても、それが補助金の目的と一致しない(しているのかもしれないが、それが審査員に伝わりにくい)計画書である場合、なかなか採択には結びつかない場合があります。
そこで計画書上で明確にしておきたいことの一つ目が、「新規性」です。
「新規性」の定義について
一般的には、どの補助金も”現状をより良くすること”を目的としています。現状を変えるためには、従来の取組をただ継続するだけでは足りず、新たな取組が必要です。
「新規性」といっても、何もいままで世の中になかったような新しいことを何とかして捻り出すといった難しい話ではありません。あくまで「自社にとって新しい事」であることが重要です。
一例として「古い加工機を最新のものに入れ替えるために補助金を活用したい」という場合、
現在当社が保有している機械は老朽化しており、現在の加工機が使えなくなると、取引先からの要求に応えられなくなり、自社にとって大きな損失が発生します。そのため、新設備の導入が必要です。
という事業計画書は、一見悪くないように思えます。しかし補助金を出す側の視点から見てみると「せっかく補助金(税金)を渡し高額な機械を買っても、何も変わらない(従来の取引が継続されるだけで、プラスは生まれない)よね」となってしまいます。
補助金によって新たな投資を行うということは、それに伴い企業においても何かしらの変化が発生するはずです。
例えば最新の加工機では加工精度が向上し、今までは製造できなかった新たな製品を製造できるようになるかもしれません。またはこれまでは扱えなかった新たな素材が加工できるようになるかもしれません。加工速度が向上することで余力が生まれ、その余力で今まで行っていなかった(行えていなかった)何かに注力できるようになるかもしれません。
留意したいのは「新しければ何でもよい」ということです。繰り返しとなりますが、補助金にはそれぞれ実施する目的がありますので、その新たな取組は、補助金の目的と繋がるものでなければなりません。
当社は今回、補助金を用いて最新の〇〇設備を導入します。この設備を導入することで新たに△△をすることが可能となるため、これまで××が理由で行っていなかった□□市場への進出を実現いたします。新製品により当社の売上は〇年後までに〇%向上する計画で、増加した利益については、従業員へも年〇%の賃上げという形で還元いたします。これは補助金の目的である××と一致する取組です。
このように、【補助金を活用して新たに何を行う】のか。そしてそれは【補助金の目的とどのように一致するのか】を明文化することが、「補助金を獲得するための事業計画書」において重要なポイントです。
補助金獲得に向けた必須ポイント2:独自性
補助金と助成金・給付金の違い
助成金や給付金と異なる補助金の特徴として、「誰もが使えるわけではない」と言うものが挙げられます。助成金や給付金は、一定の要件を満たせば(かつ予算があれば)受給できます。一方補助金は、多くの企業が一斉に申請をした後、審査員が審査を行い、その結果選ばれた(”採択された”と言います)事業者のみが補助金を申請する権利を獲得※できます。
※補助金のややこしいところで、あくまで「採択」の時点では「権利」を有するだけで、確約されているわけではないということも一応ご理解いただきたいところです。
イメージとしては、受験と似たようなシステムと考えていただくとわかりやすいかもしれません。合格者はいろいろな観点から選ばれているかもしれませんが、基本的には高得点者から順に合格する、あのイメージです。
つまり、いくら補助金の要件に合致していても、自社にとって新しい取組であろうと、丁寧に作成していても、それだけで十分とはいえません。多くの企業も同じよう時間をかけて事業計画書を作成し、申請しているからです。となると、何かしらの方法で「他社よりも優れている事業計画」であると審査員にアピールをする必要があります。
そこで私が重視している2つ目のポイントが「独自性」です。
「独自性」の定義について
ここでも勘違いをされたくないのですが、「独自性」=「他社はどこもやっていないこと」である必要はありません。オンリーワンというのは確かに魅力的で、そういった強みがある事業者様はもちろんとても素晴らしいですが、多くにおいては「そんなこと言われても…」と思われるのではないでしょうか。
私が考える「独自性」では、「他社がやっていない」だけではなく「他社よりも良くできる」も含んでいます。「強み」と言い換えてもよいかもしれません。聞かれてもすぐには出てこないかもしれませんが、基本的にはどの事業者様も「独自性」を持っているはずです。というのも、事業というのは「他所よりあなたのところが良いと思ったから依頼した」というお客様の選択の積み重なりで成立しているはずだからです。
たとえば同じようなネジを作っている会社が複数あったとして、発注する側はなにかしらの判断基準で発注先を決めています。その理由は様々で、低価格だからかもしれませんし、短納期だからかもしれませんし、不良品率が低いからかもしれません。梱包の単位が使いやすい単位で行われているからかもしれません。小ロットで使いたいタイミングぴったりに納品してくれるからかもしれませんし、社長が信頼できるからという理由で決めている可能性だってあります。
そしてその判断の裏には、何かしらの独自性が隠れています。短納期を実現できているのは、社長が設備投資を重視しており最先端の加工機を使っているからかもしれません。従業員全員が多能工のため、臨機応変に製造が行えているのかもしれません。交通の便がものすごく良い立地に会社があるのかもしれません。ご近隣の企業と密なネットワークが構築されており、柔軟に助け合える環境なのかもしれません。
そういった点を掘り下げていくと、「自社の独自性」(他社との差別化要素)について整理されていくかと思います。これをポイント1で挙げた新たな取組に盛り込んでみると、このようになります。
当社は創業60年の企業で、熟練による〇〇加工技術ついて、取引先からも高い評価を得ています。 当社は今回、補助金を用いて最新の〇〇設備を導入します。この設備を導入することで若手職人でも高品質な△△加工をすることが可能となるため、従来のリピート品については若手職人でも熟練同様のものづくりが可能となります。これに伴い熟練に余力が生まれるため、新たに、これまで引き合いがあっても余力を捻出できず失注していた□□市場への進出を実現することとしました。□□市場では近年〇〇に対するニーズが高まっていますが、新設備のXX機能と当社の熟練の〇〇加工技術を組み合わせることで、□□という特徴を持った製品を提供することができるため、高い優位性を獲得できます。 新製品により当社の売上は〇年後までに〇%向上する計画で、増加した利益については、従業員へも年〇%の賃上げという形で還元いたします。これは補助金の目的である××と一致する取組です。
「新たに加工機を買って新製品を作り、新市場に進出します」という元の計画に対し、自社の独自性を認識したうえで新たな取組に活かした計画は、説得力が高まります。
補助金の財源は多くは税金です。となると、あげる側としても結果に繋げて欲しいものです。”代替性の利く(他の企業でも行える)取組”と”代替性の利かない(その会社だから実現できる)取組”のどちらが高く評価されやすいかを想像すると、ぜひこのポイントについてはしっかり盛り込んでいただければと思います。
(余談となりますが、事業計画書の作成は、自社の良さや業界内での立ち位置を見つめなおす良い機会だと思っています。そのため、独自性の深堀は、事業計画書の作成と関係なくぜひどの事業者様にも取り組んでいただきたいと思っています)
補助金獲得に向けた必須ポイント3:実現可能性
先に挙げた通り、補助金の財源は基本的に税金です。いくら素晴らしい夢のような事業計画があったとしても、そこに実現可能性が見られなければ、そこに補助金を渡すのは一か八かの賭けのような話となってしまいます。
そのため、補助金を使って行う取り組みが、将来的に、自社にとって、そして国にとって良い結果を生み出すという根拠の説明が必要不可欠です。
実現可能性はいろいろな角度からアピールする必要がありますが、特に私が重要視しているのは下記の3点です。
- 顧客ニーズがある
- 能力・体力がある
- 論理的(客観的)な説明である
実現可能性1:顧客ニーズがある
大前提として、補助金を使って行う取組は「自社がやりたいからやる」のではなく「それを求めている人がいる(ニーズがある)から自社がやる」ものであり、スタート地点を間違えないようにすることが重要です。安定した利益を得るには、顧客ニーズの存在は必須です。
”世の中ではこういうニーズがあるという統計が出ている”、”既存取引先や新規問合せからこういう要望があった”などソースはさまざまかと思います。どこから得たニーズであるのか、できるだけ詳しく事業計画書上に記載することをお勧めします。
同じような取組を行う事業計画書があったとしても、具体的に取引予定先が明記されている事業者と、そうでない事業者とでどちらが実現可能性が高いでしょうか。
同様に、統計で確認したニーズなのであれば、どの統計を見ての話なのかを明記している事業者と、「~と聞いています」と噂レベルの書き方をしている事業者とで、どちらが実現性が高いと思えるでしょうか。
実現可能性2:能力・体力がある
夢のような事業計画があっても、事業者にそれを実現できる能力と体力、すなわち経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)がなければ絵に描いた餅です。
その事業計画を進めるにあたって、どのような人員体制でおこなうのか。どんなスケジュールで進めるのか。どのような設備を使ってどのような提供フローで行うのか。財務はどのような状況にあるのか。資金は十分に確保できているのか。実行するために必要なさまざまな情報を、ページが許す限り丁寧に説明をすることで実現可能性をアピールしたいです。
実現可能性3:論理的な説明である
審査員は手元にある事業計画書だけを見て判断するしかありません。
そのため、結論だけが書かれていてその結論に至る過程が不明であったり、最初のページと他のページで書かれている内容に矛盾があったりなど、論理性に欠ける事業計画書は実現可能性が高いとは判断しづらいです。
例えば新製品の1年目1200万円、2年目2400万円の売上計画があっても、@1万円×1200個なのか、@1000円×1万2000個なのかわかりません。なぜ2年目に2倍になるのかの計算根拠もわかりません。
どういう理由でその数字を算出したのかの説明がある事業計画と、説明がない事業計画では説得力が全く異なるかと思います。
同様にその他の項目についてもページ数が許す範囲で根拠を丁寧に明記し、またそのうえで計画書を通して矛盾点がないかを客観的な視点で確認いただければと思います。
最後に
補助金獲得は、事業の発展において大きな一歩です。効果的な事業計画書の作成はその鍵を握る要素の一つです。誰に向けた事業計画書なのか、何を目的としているのかをしっかりと把握した上で、より良い事業計画書を作成いただければと思います。