建設業のM&A・事業承継で「事業譲渡」を選択する場合、最も大きな課題のひとつが建設業許可の引き継ぎです。
かつては事業譲渡で建設業許可を引き継ぐことはできず、一度廃業して再取得するしかありませんでした。しかし現在では、令和2年(2020年)の建設業法改正による承継制度と、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の許認可承継特例という2つの選択肢が生まれています。
本記事では、この2つの制度と従来の再取得を比較し、建設業の事業譲渡で許可を引き継ぐ際の実務上の考え方をお伝えします。
なお、実際に利用を検討される際は、建設業許可に精通した行政書士や税理士に必ずご相談ください。
建設業の事業譲渡と許認可 ― 何が問題だったのか
令和2年改正以前の課題
建設業許可は法人格に紐づく許可です。株式譲渡であれば法人格が変わらないため許可は維持されますが、事業譲渡の場合は法人格が異なる別会社に事業を移転するため、許可は引き継がれないのが原則でした。
つまり、事業譲渡で建設業を承継しようとすると、承継元は廃業届を出し、承継先は新たに建設業許可を新規申請するしかありませんでした。
この場合、廃業日から新たな許可が下りるまでの間、500万円以上の工事を請け負うことができない「空白期間」が発生します。
進行中の工事がある場合や、公共工事の受注を行っている場合は、この空白期間が事業継続に深刻な影響を及ぼすことがありました。
現在は「3つの方法」がある
現在、建設業の事業譲渡で許可を引き継ぐ(または取得する)方法は大きく3つあります。
| 方法 | 根拠法 | 概要 |
|---|---|---|
| ① 建設業法の承継制度 | 建設業法 第17条の2 | 許可行政庁に事前認可を申請し、認可を受けて許可を承継する |
| ② 経営力向上計画の許認可承継特例 | 中小企業等経営強化法 | 経営力向上計画に事業承継を含めて認定を受け、許認可の地位を承継する |
| ③ 新規取得(再取得) | 建設業法 第3条 | 承継先が新たに建設業許可を申請・取得する |
以下で、それぞれの特徴・メリット・デメリットを比較していきます。
方法① 建設業法の承継制度(法17条の2)
制度の概要
令和2年10月1日の建設業法改正により、事業譲渡・合併・会社分割について「事前認可」を受けることで、建設業者としての地位を承継できる制度が新設されました。
承継先(譲受人)は、事業譲渡の実行前に許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)に認可申請を行います。
許可行政庁が審査を行い、認可が下りた後に事業譲渡を実行すると、実行日をもって承継元の建設業者としての地位が承継されます。
メリット
建設業許可に関するすべてを包括的に承継できる
- 許可番号がそのまま引き継がれる
- 経営事項審査(経審)の結果も承継される → 公共工事の入札資格を維持できる
- 許可の空白期間が発生しない
- 建設業法に基づく制度であり、許可行政庁が直接審査するため手続きが明確
- 大企業が関与する場合でも利用可能(企業規模の制限がない)
デメリット・注意点
① 承継元の一部の許可業種だけを承継することは不可
建設業法の承継制度では、「建設業の全部」の譲渡が前提です。
承継元が10業種の許可を持っている場合、そのうち3業種だけ承継するといった一部承継はできません。
承継先にとって不要な業種がある場合は、承継後に廃業届を出す、あるいは承継前に承継元が不要な業種を廃業するなどの対応が必要です。
② 監督処分の履歴も承継される
建設業者としての地位をすべて承継するため、承継元が過去に受けた監督処分(営業停止等)も引き継がれます。
承継先のデューデリジェンスにおいて、処分歴の有無は必ず確認すべきポイントです。
③ 承継先が許可要件を満たしている必要がある
認可を受けるには、承継先が経営業務の管理責任者、専任技術者、財産的基礎などの建設業許可の要件を満たしている必要があります。
特に、承継元から技術者を引き継ぐ場合は、承継日時点での常勤性の確認が求められます。
④ 税制上のメリットは含まれない
建設業法の承継制度はあくまで「許認可の承継」に特化しており、不動産取得税の軽減や損金算入などの税制メリットはありません。
方法② 経営力向上計画の許認可承継特例
制度の概要
中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画に事業承継等を記載して認定を受けた場合、建設業を含む6種類の許認可について、事業譲渡でも承継元の地位をそのまま引き継ぐことができる特例です。
メリット
許認可承継だけでなく、税制・金融面のメリットを同時に得られる
- 不動産取得税の軽減(課税標準の1/6控除) → 建設業の事業譲渡では工場・事務所・資材置き場等の不動産を含むことが多く、効果大
- 中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入(取得価額の70%まで)
- 免責的債務引受の特例 → 債権者の個別同意の手続きを簡略化
- D類型(経営資源集約化設備)を活用したM&A後の設備投資の税制優遇
デメリット・注意点
① 許可番号・経審結果の承継が明確でない
経営力向上計画の許認可承継特例は、中小企業等経営強化法に基づく汎用的な制度です。
「許認可に係る地位」を承継する仕組みですが、建設業許可に固有の「許可番号」や「経営事項審査の結果」の承継について、建設業法の承継制度ほど明確な規定や運用実績があるとは言えません。
公共工事を受注している建設会社にとっては、この点が大きなリスク要因になります。
② 中小企業同士のM&Aに限定される
事業譲渡側・承継側のどちらかが大企業の場合は対象外です。
大手建設会社や大企業の子会社が関与するM&Aでは利用できません。
③ 手続きの複雑さ・時間
経営力向上計画の認定(通常30日程度)に加えて、許認可の所管行政庁(建設業の場合は国交省または都道府県)への事前相談・評価にも時間がかかります。
両方の行政機関と並行してやりとりする必要があり、スケジュール管理は建設業法の承継制度よりも煩雑になる場合があります。
④ 運用実績が少なく、行政庁の対応にばらつきがある可能性
建設業法の承継制度(法17条の2)は施行から5年が経過し、各都道府県で手引きが整備されるなど運用が安定してきています。
一方、経営力向上計画の許認可承継特例を建設業で活用した事例は相対的に少なく、所管行政庁の対応に地域差がある可能性があります。
方法③ 新規取得(再取得)
概要
承継先が建設業許可を新たに申請・取得する方法です。令和2年の建設業法改正以前は、事業譲渡の場合はこの方法しかありませんでした。
メリット
- 必要な業種だけを選んで許可を取得できる(全業種の承継が不要)
- 承継元の監督処分歴を引き継がない
- 手続きが単純(通常の新規許可申請と同じ)
デメリット
- 許可が下りるまでの「空白期間」が発生する
- 許可番号は新規(旧番号は引き継がれない)
- 経審結果は引き継がれない → 公共工事の入札資格をゼロから構築する必要がある
- 承継先が許可要件(経管・専技・財産的基礎等)を独自に満たす必要がある
3つの方法の比較一覧
| 比較項目 | ① 建設業法の承継制度 | ② 経営力向上計画 | ③ 新規取得 |
|---|---|---|---|
| 許可の空白期間 | なし | なし(認定後に実行) | あり |
| 許可番号の引き継ぎ | 可能 | 不明確 | 不可 |
| 経審結果の引き継ぎ | 可能 | 不明確 | 不可 |
| 一部業種のみ承継 | 不可(全業種一括) | 計画に記載の範囲 | 必要な業種のみ可能 |
| 監督処分の承継 | あり(引き継がれる) | 規定上は不明確 | なし |
| 大企業の関与 | 制限なし | 中小企業同士のみ | 制限なし |
| 不動産取得税の軽減 | なし | あり(1/6控除) | なし |
| 準備金の損金算入 | なし | あり(70%まで) | なし |
| 手続きの成熟度 | 高い(手引き整備済み) | やや低い | 高い |
| 中心となる専門家 | 行政書士 | 中小企業診断士・税理士 | 行政書士 |
実務での使い分け ― ケース別の考え方
ケース1:公共工事を受注している建設会社の事業譲渡
公共工事の受注実績がある建設会社を事業譲渡で承継する場合、経審結果の引き継ぎが極めて重要です。
経審を引き継げなければ入札参加資格を失い、受注基盤を大きく損なうことになります。
この場合は建設業法の承継制度(法17条の2)を軸に据え、許可番号・経審結果を確実に承継します。
そのうえで、事業譲渡に伴う不動産の取得がある場合は経営力向上計画を併用して不動産取得税の軽減や準備金の損金算入を活用するのが最も効果的です。
許認可の承継は建設業法、税制面のメリットは経営力向上計画、と「役割を分けて併用する」のが実務上の最適解です。どちらか一方を選ぶのではなく、それぞれの制度の強みを活かす発想が大切です。
ケース2:民間工事中心の小規模な建設会社の事業譲渡
公共工事をほとんど受注しておらず、経審結果の引き継ぎが重要でない場合は、選択肢が広がります。
中小企業同士の事業譲渡であれば、経営力向上計画の許認可承継特例を中心に検討し、あわせて不動産取得税の軽減や準備金の活用も図ることができます。
ただし、経営力向上計画の許認可承継特例で建設業許可がどこまで確実に承継されるかは、所管行政庁への事前相談で確認することが不可欠です。
不安がある場合は、建設業法の承継制度との併用を検討してください。
ケース3:承継元の一部の業種だけが必要な場合
承継元が多数の業種の許可を持っているが、承継先は一部の業種しか必要としないケースでは、建設業法の承継制度(全業種一括)がかえって使いにくいことがあります。
この場合、必要な業種について新規取得(③)を行いつつ、許可の空白期間が事業に与える影響を最小限にするスケジュール設計が重要です。
あるいは、一旦全業種を承継制度で引き継いだ後に、不要な業種を廃業するという方法もあります。
ケース4:建設業以外の許認可も同時に承継したい場合
承継する事業に建設業だけでなく、運送業(一般貨物自動車運送事業)や旅館業の許認可も含まれている場合は、経営力向上計画の許認可承継特例が特に有効です。
建設業法の承継制度はあくまで建設業許可に特化した制度であり、他の業種の許認可には対応していません。
複数の許認可をまとめて承継したい場合は、経営力向上計画で一体的に対応するメリットがあります。
建設業の事業譲渡で「やってはいけないこと」
事後の対応では手遅れになる
建設業法の承継制度も、経営力向上計画の許認可承継特例も、いずれも事業譲渡の実行前に手続きを完了させる必要がある点は共通しています。
「まず事業譲渡を実行してから許可の手続きをしよう」という進め方では、どちらの制度も利用できません。
許可要件の確認を怠らない
許可を承継できたとしても、承継後に許可要件を満たせなくなれば許可は取り消されます。
特に経営業務の管理責任者や専任技術者の常勤性は、承継前後で途切れないよう慎重な計画が必要です。
承継元から技術者が移籍する場合は、社会保険の切り替えや雇用契約のタイミングも含めて準備してください。
スケジュールの甘さが最大のリスク
建設業法の承継制度では、許可行政庁への事前相談と認可申請に一定の期間がかかります。
経営力向上計画を併用する場合は、さらに計画策定・認定の時間も必要です。
M&Aのスケジュールが確定してから動き始めるのではなく、検討段階から専門家と連携してスケジュールを逆算することが成功の鍵です。
専門家との連携が不可欠
建設業の事業譲渡における許可の承継は、建設業法・中小企業等経営強化法・税法が複合的に関わる領域です。
一つの専門家だけでカバーすることは難しく、それぞれの分野に強い専門家が連携して対応することが重要です。
各専門家の役割の目安:
- 行政書士:建設業許可の承継認可申請、許可要件の確認、所管行政庁との事前相談
- 税理士:不動産取得税の軽減、準備金の損金算入、D類型の税額控除など税務面の最適化
- 中小企業診断士:経営力向上計画の策定支援、事業承継の全体設計、PMI(統合後の経営)支援
- 弁護士:事業譲渡契約書の作成・レビュー、法務デューデリジェンス
- M&A仲介会社:マッチング、バリュエーション、交渉支援
実際に許可の承継を検討する段階では、建設業許可に精通した行政書士と、税制優遇に詳しい税理士への相談を強くおすすめします。
当事務所では、経営力向上計画の策定支援やM&A全体の設計を行いつつ、必要に応じて行政書士・税理士と連携してサポートさせていただきます。
よくある質問(FAQ)
- Q建設業法の承継制度と経営力向上計画は併用できますか?
- A
はい、併用可能です。許認可の承継は建設業法の制度で確実に行い、税制面のメリット(不動産取得税の軽減・準備金の損金算入等)は経営力向上計画で活用する、という使い分けが実務上は最も効果的です。ただし、両方の手続きを並行して進める必要があるため、スケジュール管理には十分注意してください。
- Q建設業法の承継制度で、承継元の処分歴はすべて引き継がれますか?
- A
監督処分(営業停止命令等)は承継されます。ただし、罰則(罰金等)は違反行為を行った法人そのものに課されるものであり、承継先には承継されません。デューデリジェンスの段階で、承継元の処分歴を必ず確認してください。
- Q経営力向上計画だけで建設業許可を承継するのは現実的ですか?
- A
理論上は可能ですが、許可番号や経審結果の承継について建設業法の承継制度ほどの確実性がないため、慎重な判断が必要です。事前に所管行政庁(都道府県の建設業担当課等)に相談し、実際にどこまで承継されるかを確認することを強くおすすめします。特に公共工事を受注している会社の場合は、建設業法の承継制度を併用するのが安全です。
- Q個人事業の建設業を法人に承継する場合はどの方法が使えますか?
- A
いわゆる「法人成り」のケースでは、建設業法の承継制度(法17条の2)が利用できます。個人事業主(譲渡人)と新設法人(譲受人)の間で事業譲渡契約を締結し、事前認可を受ける流れです。経営力向上計画も、個人事業主が対象に含まれますので、要件を満たせば併用が可能です。
- Q事前相談はどこにすればいいですか?
- A
建設業法の承継制度については、許可行政庁(国土交通大臣許可の場合は管轄の地方整備局、都道府県知事許可の場合は都道府県の建設業担当課)に事前相談してください。経営力向上計画については、認定経営革新等支援機関(中小企業診断士事務所、税理士事務所等)に相談するのがスムーズです。
まとめ ― 「どの制度を使うか」ではなく「どう組み合わせるか」
建設業の事業譲渡で許可を引き継ぐ際、建設業法の承継制度と経営力向上計画は「どちらが良いか」ではなく、「それぞれの強みをどう組み合わせるか」で考えることが大切です。
許認可の確実な承継 → 建設業法の承継制度。税制面のメリット → 経営力向上計画。
この「役割分担」を意識することで、建設業のM&A・事業承継をより有利に進めることができます。
ただし、いずれの制度も事前の手続きが必須であり、事後の対応は認められません。
建設業の事業譲渡を検討し始めた段階で、行政書士・税理士・中小企業診断士といった専門家チームに早めにご相談いただくことが、最も確実な進め方です。
- 経営力向上計画の制度全体を知りたい方 → 「経営力向上計画とは?中小企業が認定を受ける5つのメリット」(シリーズ第1回)
- 不動産取得税の軽減・準備金など、M&Aでの経営力向上計画活用の全体像 → 「M&A・事業承継で経営力向上計画を活用すべき理由」
- 建設業を含む6業種の許認可承継特例の詳細 → 「事業譲渡でも許認可を引き継げる?|許認可承継の特例を解説」
