📖 本記事は「経営力向上計画」シリーズの第2回です。制度の全体像を知りたい方は、まず第1回「経営力向上計画とは?中小企業が認定を受ける5つのメリット」をご覧ください。
「設備投資をしたいが、税金の負担が重い」
中小企業の経営者にとって、設備投資と税負担のバランスは常に悩ましい問題です。
経営力向上計画の認定を受けると活用できる「中小企業経営強化税制」は、設備投資額の全額を経費にできる即時償却か、法人税から直接差し引ける税額控除かを選べる制度です。
中小企業の設備投資を後押しする税制としては最も手厚いものの一つですが、「どちらを選ぶべきか」「自社の設備は対象になるのか」がわかりにくいという声も多く聞かれます。
本記事では、中小企業経営強化税制の仕組みと、A類型・B類型・D類型の違い、即時償却と税額控除の選び方を、できるだけわかりやすくお伝えします。
中小企業経営強化税制とは
制度の概要
中小企業経営強化税制とは、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき、対象設備を新たに取得した場合に、即時償却または税額控除のいずれかを選択して適用できる税制優遇措置です。
| 優遇措置 | 内容 |
|---|---|
| 即時償却 | 設備の取得価額を、取得した事業年度に全額経費として計上できる |
| 税額控除 | 取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下は7%)を法人税額から直接差し引ける |
通常の減価償却では、設備の取得価額を耐用年数に応じて数年にわたって少しずつ経費にしていきます。
即時償却を選べば、これを初年度に一括して経費にできるため、その年の課税所得を大幅に圧縮できます。一方、税額控除は法人税そのものを減らす効果があります。
対象となる企業
以下の要件をすべて満たす事業者が対象です。
- 青色申告書を提出していること
- 中小企業者等に該当すること(資本金の額が1億円以下の法人、または常時使用する従業員が1,000人以下の個人事業主など)
- 特定事業者等に該当すること(常時使用する従業員が2,000人以下であること)
- 経営力向上計画の認定を受けていること
対象外となる事業:
電気業、熱供給業、水道業、娯楽業(映画業を除く)、鉄道業、航空運輸業、銀行業等は対象外です。また、暗号資産マイニング業の用に供する設備も対象外となっています。
適用期限
令和7年度(2025年度)税制改正により、適用期限は令和9年(2027年)3月31日まで延長されています。この期限内に対象設備を取得し、事業の用に供する必要があります。
なお、税制改正は毎年行われるため、最新の情報は中小企業庁のホームページや税理士にご確認ください。
設備の類型 ― A類型・B類型・D類型の違い
中小企業経営強化税制の対象設備は、以下の3つの類型に分かれています(令和7年4月以降、C類型は廃止されました)。
| 類型 | 名称 | 概要 | 証明・確認 |
|---|---|---|---|
| A類型 | 生産性向上設備 | 一定の指標(単位時間当たり生産量、歩留まり率、投入コスト削減率)が旧モデル比で改善された設備 | 工業会等による証明書 |
| B類型 | 収益力強化設備 | 投資計画における年平均の投資利益率が7%以上の設備 | 経済産業大臣による確認書 |
| D類型 | 経営資源集約化設備 | M&Aを伴う経営力向上計画に基づく設備投資 | 経済産業大臣による確認書 |
A類型(生産性向上設備)が最も利用しやすい
A類型は、メーカーが工業会等を通じて証明書を発行してくれるため、事業者側の負担が比較的少ないのが特徴です。
設備メーカーに「経営強化税制のA類型に該当する証明書を出してもらえますか?」と確認するのが最初のステップになります。
令和7年度の改正で、経営力向上の指標が「単位時間当たり生産量」「歩留まり率」「投入コスト削減率」のいずれかに限定されました。以前よりも対象が絞られた点には注意が必要です。
B類型(収益力強化設備)は自由度が高いが手続きが多い
B類型は、設備の種類を問わず「投資利益率が年平均7%以上」であれば対象になるため、A類型の証明書が取れない設備にも適用できる可能性があります。
ただし、投資計画を策定して税理士または公認会計士の事前確認を受け、経済産業局の確認書を取得するという手続きが必要です。
また、翌年には事後報告も必要となります。
なお、令和7年度改正で投資利益率の要件が従来の5%以上から7%以上に引き上げられました。
D類型(経営資源集約化設備)はM&A後の設備投資向け
D類型は、M&A(事業承継等)を伴う経営力向上計画に基づき取得する設備が対象です。
M&A後の統合効果を高めるための設備投資に活用できます。手続きはB類型と同様に経済産業局の確認が必要です。
まず設備メーカーにA類型の証明書が出るかを確認してください。出ない場合はB類型を検討します。M&Aを伴う場合はD類型も選択肢に入ります。判断が難しい場合は、税理士や認定経営革新等支援機関に相談することをおすすめします。
対象設備と取得価額の要件
| 設備の種類 | 最低取得価額 |
|---|---|
| 機械装置 | 160万円以上 |
| 工具 | 30万円以上 |
| 器具備品 | 30万円以上 |
| 建物附属設備 | 60万円以上 |
| ソフトウェア | 70万円以上 |
対象となるのは新品の設備に限られます。中古設備やリース資産(所有権移転外)は対象外です。また、事務用器具備品、本店・寄宿舎等に係る建物附属設備なども対象外となります。
即時償却と税額控除 ― どちらを選ぶべきか
それぞれの特徴を比較する
| 比較項目 | 即時償却 | 税額控除 |
|---|---|---|
| 効果の出方 | 初年度に大きな節税効果 | 毎年少しずつ節税効果 |
| 税金の「減る量」 | 税金の支払いを先送りする(トータルでは同じ) | 税金そのものが減る(トータルで得) |
| キャッシュフロー | 初年度に手元資金が多く残る | 毎年安定的に節税 |
| 赤字の場合 | 効果を得にくい(そもそも課税所得がない) | 1年間繰り越し可能 |
| 控除上限 | 取得価額の全額 | 法人税額の20%が上限 |
即時償却が向いているケース
- 今期の利益が大きく、課税所得を圧縮したい場合
- 設備投資のために借入をしており、早期に資金を回収したい場合
- 翌期以降の業績が不透明で、今期のうちに節税効果を確定させたい場合
即時償却の本質は「税金の支払いタイミングの先送り」です。
設備の取得年度に全額を経費にすることで、その年の法人税を大きく減らせます。
ただし、翌年度以降は減価償却費がなくなるため、長期的に見た法人税の総額は通常の減価償却と変わりません。
それでも即時償却が選ばれる理由は、キャッシュフローの改善効果にあります。
設備投資の直後は資金が最も不足しやすい時期です。初年度に税負担を軽くして手元資金を確保できることは、経営の安定にとって大きなメリットです。
税額控除が向いているケース
- 安定的に黒字が出ており、毎年一定の法人税を支払っている場合
- 設備投資額に対して利益が十分にあり、初年度の資金繰りに困っていない場合
- 「トータルでの節税額」を最大化したい場合
税額控除は法人税そのものを減らす効果があるため、長期的に見ると即時償却よりも節税額が大きくなります。
取得価額の10%(資本金3,000万円超は7%)を法人税額から差し引けるため、たとえば1,000万円の機械であれば最大100万円の法人税が減ります。
ただし、税額控除には法人税額の20%という上限があります。
利益が少ない年度には控除しきれない場合がありますが、控除しきれなかった分は1年間に限り繰り越すことができます。
「どちらが有利か」は、自社の利益水準・資金繰り・将来の業績見通しによって変わります。顧問税理士と相談のうえ、シミュレーションを行って判断することをおすすめします。
具体例で考える ― 500万円の機械を取得した場合
以下はイメージをつかむための簡易な例です。実際の税額は個々の事情により異なります。
前提条件
・取得価額:500万円(機械装置)
・耐用年数:5年(定額法の場合、年間100万円ずつ減価償却)
・法人税率:約23%(簡易計算)
・資本金:1,000万円(税額控除率10%)
即時償却を選んだ場合
取得年度に500万円全額を経費計上できるため、その年度の課税所得が500万円減少し、法人税が約115万円減少します。ただし翌年以降は減価償却費がないため、5年間のトータルでは通常の減価償却と法人税の総額は同じです。
税額控除を選んだ場合
500万円 × 10% = 50万円を法人税から直接差し引けます。通常の減価償却(年100万円 × 5年)も行えるため、50万円分だけ法人税のトータルが安くなります。
比較のまとめ
| 即時償却 | 税額控除 | |
|---|---|---|
| 初年度の節税効果 | 約115万円 | 約50万円 |
| 5年間トータルの節税額 | 0円(先送り効果のみ) | 50万円 |
| 初年度のキャッシュフロー改善 | 大きい | やや小さい |
このように、即時償却は「今すぐの資金繰り」に強く、税額控除は「トータルの節税」に強いという特徴があります。
手続きの流れ ― 設備取得前に計画認定が必要
中小企業経営強化税制を利用するには、原則として設備を取得する前に経営力向上計画の認定を受ける必要があります。手続きの大まかな流れは以下のとおりです。
A類型の場合
①設備メーカーに「工業会等による証明書」の発行を依頼する(発行まで約6〜7週間)
②証明書を添付して経営力向上計画を策定・申請する
③主務大臣の認定を受ける(申請から約30日)
④認定後に設備を取得し、事業の用に供する
⑤税務申告時に所定の書類を添付する
B類型・D類型の場合
①投資計画を策定する
②税理士または公認会計士の事前確認を受ける
③経済産業局に確認申請を行い、確認書を取得する
④確認書を添付して経営力向上計画を策定・申請する
⑤主務大臣の認定を受ける
⑥認定後に設備を取得し、事業の用に供する
設備を取得した後で計画を申請しようとするケースが実務上非常に多いですが、原則として設備取得前に計画の認定を受ける必要があります。例外として、申請書の到達日から遡って60日以内に取得した設備であれば認められるケースもありますが、認定書の取得は設備取得前に行われている必要があります。確実に税制の適用を受けるためには、計画認定後に設備を取得する流れで進めてください。
令和7年度改正で変わったポイント
令和7年度(2025年度)の税制改正で、中小企業経営強化税制には以下の変更がありました。
| 改正内容 | ポイント |
|---|---|
| 適用期限の延長 | 令和9年(2027年)3月31日まで2年間延長 |
| A類型の指標見直し | 経営力向上の指標が「単位時間当たり生産量」「歩留まり率」「投入コスト削減率」に限定 |
| B類型の投資利益率引き上げ | 年平均5%以上 → 7%以上に変更 |
| C類型(デジタル化設備)の廃止 | 令和7年3月31日をもって終了 |
| E類型(経営規模拡大設備)の新設 | 売上高100億円超を目指す企業向けの拡充措置(建物が対象に追加) |
よくある質問(FAQ)
- Q即時償却と税額控除は後から変更できますか?
- A
経営力向上計画自体には、即時償却か税額控除かを記載していませんので、確定申告時にどちらをつかうか選択することとなります。一度選択して税務申告を行った後は変更できません。顧問税理士と相談のうえ、慎重に判断してください。
- Qリースで取得した設備も対象になりますか?
- A
所有権移転ファイナンスリースであれば税額控除の対象になります。ただし即時償却は対象外です。所有権移転外ファイナンスリースやオペレーティングリースは対象外です。
- Q個人事業主でも利用できますか?
- A
はい、青色申告を行っている個人事業主も対象です。その場合、所得税の即時償却または税額控除が適用されます。
- Q認定支援機関への相談は必要ですか?
- A
経営力向上計画の策定自体は事業者が自ら行うことも可能です。類型の選択や投資計画の策定、税務面の判断において専門的な知識を必要とする場合は、認定経営革新等支援機関(中小企業診断士事務所、税理士事務所等)に相談することで、より確実かつ有利な計画策定が可能になります。
まとめ ― 税制優遇は「目的」ではなく「手段」
中小企業経営強化税制は、設備投資を行う中小企業にとって非常に有効な税制優遇です。
即時償却によるキャッシュフロー改善か、税額控除によるトータルの節税か、自社の経営状況に応じた選択ができる点も大きな魅力です。
ただし、税制優遇はあくまで「設備投資の負担を軽くする手段」であり、投資そのものの目的ではありません。
大切なのは、まず「自社がどうなりたいのか」というビジョンがあり、その実現のために必要な設備投資を計画し、その負担軽減策として税制を活用するという順番です。
当事務所では、経営力向上計画の策定を通じて、設備投資の判断と税制活用を一体的にサポートしています。「この設備は対象になるのか」「即時償却と税額控除のどちらが有利か」といったご質問も、お気軽にお問い合わせください。
- 第1回:経営力向上計画とは?中小企業が認定を受ける5つのメリット
- 第2回:経営力向上計画で設備投資の税負担を軽くする方法(本記事)
- 第3回:経営力向上計画は補助金の採択率を上げる?加点と金融支援の活用法
- 第4回:経営力向上計画の書き方と申請の流れ
