補助金は経済産業省のものが話題になりやすいですが、観光庁も様々な補助事業を行っています。
しかし、基本的には地域公共団体向けであったり、いくつかの企業が共に申請をする必要であったり、なかなか観光業界に属する一般の中小企業等(飲食業、宿泊業、観光施設、土産物等)が単独で気軽に利用しづらい状況です。
しかし、観光庁の補助事業は、申請の有無にかかわらず、事業の役に立つ情報が多く掲載されています。
本記事ではその中から、RESASを活用した、無料で行える観光業向けデータの取得方法についてお伝えします。
目次
RESASとは
RESASとは、国が提供しているシステムで、地域に関する様々なビッグデータを、誰にでも簡単に使えるよう「見える化」したものです。利用するのに費用はかからず、またログイン等も必要ありませんので、使いたいときにいつでも自由に使うことができます。


RESASで2024年10月時点で確認できるデータの数は84種類で、年々情報が追加されています。
しかし、データがたくさん用意されていても、ではなかなかその中の何をどう利用すればいいのかというのは難しいものです。
そこで1つの活用方法として参考になるのが、冒頭でもお伝えした観光庁の各種補助金です。
観光業に役立つ情報提供がある観光庁補助金
地域観光”新発見”事業
地方公共団体等が地域に観光コンテンツ(ツアー、体験、イベント等)を新たに作ったり、または既存の観光コンテンツを深堀りする場合に、企画やプロモーション等に係る費用を補助する『地域観光”新発見”事業』では、「申請前支援」として、観光マーケティング分析の方法や、魅力的な観光コンテンツを生み出すための講座動画などを公開しています。

オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業
観光客が集中することで、渋滞や混雑など地域住民の生活に影響をおよぼすオーバーツーリズムを防止・抑制するために、地方公共団体等に対し補助を行う『オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業』では、「研修」として様々な情報を提供しています。

RESASを活用したデータ取得
今回ご紹介したいのは、この『オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業』の「研修」のうち「観光データ利活用に関する研修」です。
ホームページ上で「ワークシート」という名前で、あらかじめデータ分析のためのひな形が用意されており、そのひな形を実際に埋めていくためのマニュアルとして「マーケティングデータ抽出方法資料」(および動画)も公開されています。
一例として、下記が、マニュアルに沿って作成した三重県鈴鹿市と三重県桑名市の観光関連データとなります。
ひな形に画像を埋め込んでいくとどうしても文字が小さくなってしまうため、ご興味を持たれた方は、ぜひご自身で試していみていただければと思います。
どの様な人(日本人・訪日外国人)が来ているのか?




国内観光客であればどの都道府県から来ているのか、訪日外国人はどの国から来ているのかを確認できます。訪日外国人については県単位のデータとなるため、鈴鹿市と桑名市でデータが異なるのは国内観光客についてのみです。
距離的にはそんなに離れていないのに、1位2位は同じであるものの、3位以降の構成がかなり異なることが読み取れます。
また、訪日外国人については例えば東京都のデータと比較するとまた全く構成が異なります。(東京は一位が米国です)
いつ頃がシーズンピーク(日本人・訪日外国人)なのか?
三重県鈴鹿市のピークシーズン・オフシーズン

三重県桑名市のピークシーズン・オフシーズン

文字が小さくわかりづらいのですが、2023年1月~12月の1年間のデータです。
鈴鹿市は比較的特定の月に集中しているのに対し、桑名市は山がいくつもあることが確認できます。
平日休日・時間帯別の滞在人口(日本人)はどれぐらいなのか?
三重県鈴鹿市の国内観光客の滞在人口(2023年4月)



三重県桑名市の国内観光客の滞在人口(2023年4月)



平日と休日のそれぞれのエリアの人の多さが確認できます。休日に観光地や商業施設付近などの人口が増えていることが確認できます。
時間帯別の滞在人口(訪日外国人)はどれぐらいなのか?
三重県鈴鹿市の訪日外国人滞在人口(2023年4月)




三重県桑名市の訪日外国人滞在人口(2023年4月)




訪日外国人の日中と夜間の滞在者数が確認できます。2023年4月のデータを出力しましたが、桑名市においては夜間の滞在者数は減少していることが確認できます。
地域住民はどれぐらいいるのか?
三重県鈴鹿市の地域住民人口


三重県桑名市の地域住民人口


それぞれの市の人口構成が確認できます。今後少子高齢化が進むことは全国的に共通しています。
取得したデータの活用方法
データを取得しただけでは何も物事はよくなりません。
問題の解消や、課題の実現、なにを目的にするにおいても、行うべきことは「仮説を立ててトライする」の繰り返しであり、データはその仮説の確実性を高めるために役立ちます。
もちろん仮説なのでデータに基づいて行ってもうまくいかないことはありますが、少なくともデータに基づかずに行うより失敗の確立を低めることができますし、実行者が自信を持てる仮説を基に取り組むことで成功率が高まることだってありえます。
上記のデータであれば、例えば台湾からの観光客が多いのであれば、
- これまでは英語のメニューだけ用意していたけれど繁体字も用意してみようか。
- どうやら台湾にはベジタリアンが多いらしい。ベジタリアン向けメニューにマークをつけてみようか。
- 台湾の人が旅行の際に利用するWEBサイトに情報を追加してみよう。
などという選択肢が出てきます。
インターネットでの情報共有が当たり前になった今、このような取組が該当地域の方に認知され「あの店は私たちが利用しやすい」と情報共有がされるのは珍しくありません。
私が過去に関わった飲食店でも、特定の国からの観光客がとにかく多くいらっしゃるという割烹料理のお店がありました。(日本人でも海外に行った際に「日本人歓迎」とわかっている店であれば入りやすいですよね)
新規出店やイベント開催を考えるのであれば、その場所が十分な顧客を期待できるのかの検討にも利用できます。
長期的に人口が減少していくことを止めるのは難しいでしょう。そうなると客単価を上げていくか、新たな顧客を獲得するか、いずれかに取り組んでいく必要があります。
桑名市の夜間の滞在人口が減ることについては、宿泊につながらない何か理由があるのか、それは季節的なものなのか、エリア的なものなのか考えてみるのも良いでしょう。
考える際には、別の時期の同エリアと比較をしたり、別のエリアと比較したり、複数の方法で比較するのをお勧めします。単一データだけではなかなか理由を考えることは難しいものです。
データが足りないと思えば、RESASの他の統計や他のデータを探してみるのも良いと思います。
おわりに
何かを始めるにあたって、0から始めるのはハードルが高いものですが、今回ご紹介したツールのように、ある程度のひな形が用意されていると、最初の1歩を踏み出す大きな助けになります。
国の統計データは数年に1度行われているようなものも多いため、RESASだけで最新の情報を得ることはできませんが、市区町村などでも毎年の統計情報などを発表しているため、複数のデータを確認することで無料でもある程度の情報を得ることができます。
データはあくまでデータです。正確なデータを集めることにばかり固執してしまうと、「トライ」のタイミングが遅くなってしまうだけです。
ある程度の情報を収集したら、そこまで得た情報を基にまずは何か試してみる。結果が予測と異なれば、必要に応じて新たなデータも交えて再度仮説を立て、トライする。基本ですがPDCAをたくさん繰り替えすことが成功につながる道であると考えます。
この記事をきっかけに、ぜひお住いの地域等でのデータ分析にチャレンジしていただければ幸いです。