補助金の申請は手続きが煩雑なため、専門家に支援を依頼すること自体は合理的な選択です。
しかし「全部お任せで」と丸投げしてしまうと、採択後に思わぬ問題が起きることがあります。
「書類はできている。でも、何を申請したのかよくわからない」
「採択されたが、実績報告の段階で現場と計画が全然違う」
こうした声は、補助金支援の現場でめずらしくありません。
本記事では、補助金申請における「丸投げ」のリスクと、支援機関を選ぶ際のチェックポイント、そして経営者が最低限関わるべきことをお伝えします。
補助金を初めて検討している方にも、過去に苦労された方にも、ぜひ参考にしていただければと思います。
「丸投げ」とはどういう状態か
ここで言う「丸投げ」とは、補助金の申請に関わるすべての作業を支援機関やコンサルタントに任せ、経営者自身がほとんど関与しない状態を指します。
具体的には、次のような状況です。
- 事業計画の内容を支援機関が考え、経営者は確認だけしてサインする
- 「これでいきましょう」と言われたまま、計画の中身を十分に理解していない
- 補助金の対象経費や実施スケジュールを、経営者がほとんど把握していない
「任せているから大丈夫」と感じるかもしれませんが、採択後に問題が起きやすいのはまさにこのパターンです。
補助金の申請は「書類を出すこと」がゴールではない
補助金の申請書類を提出することは、あくまでスタート地点です。
採択された後には、設備の発注・導入、実績報告書の作成と提出、さらにその後数年にわたる事業化状況の報告など、さまざまな手続きが続きます。
これらのすべてにおいて、「申請書類に書いた内容」と「実際に行った取り組み」の整合性が問われます。
経営者自身が計画の中身を理解していないと、この整合性を保つことが難しくなります。
丸投げが引き起こす3つのリスク
リスク① 事業計画の内容を経営者が理解していない
補助金の審査では、申請書類に書かれた事業計画の内容と、実際の経営状況の整合性が重視されます。
丸投げで申請した場合、経営者が計画の細かい内容を把握していないことがあります。
採択後、行政機関からの確認や問い合わせに対して、経営者が自分の言葉で説明できないという状況になりかねません。
また、補助金の種類によっては、採択後に「審査担当者との確認面談」が行われる場合もあります。
そのとき、自社の事業計画について自分の言葉で説明できないと、不自然な印象を与えてしまうことがあります。
リスク② 採択後の実績報告で整合性が取れなくなる
補助金では、事業を実施したあとに「実績報告書」を提出する必要があります。
実績報告書では、申請書類に記載した内容と、実際に行った取り組みの内容が一致していることを証明しなければなりません。
具体的には、購入した設備の見積書・発注書・請求書・納品書・支払いの証拠(通帳の写しなど)をそろえ、計画どおりに事業が実施されたことを示します。
丸投げで進めた場合、申請書類の内容が「支援機関が書いたもの」になりやすく、経営者の実際の事業実態と少しずれた計画になっていることがあります。
その結果、いざ実績報告を書こうとしたときに、「計画と実際が違う」「この経費は対象になるのか」といった問題が浮かび上がることがあります。
最悪の場合、補助金の一部または全額を返還しなければならないという事態になることもあります。
リスク③ 「補助金ありき」の計画になりやすい
丸投げの申請では、「採択されやすい計画」を作ることが優先されるあまり、経営者が本来やりたかった投資の方向性が変わってしまうことがあります。
たとえば、「補助金の採択実績が多い設備を勧められて購入したが、自社の現場には合っていなかった」というケースが起こりえます。
補助金に採択されること自体が目的になってしまい、肝心の「事業をどう改善したかったのか」という視点が薄れてしまうのです。
補助金はあくまで「事業の取り組みを後押しする制度」です。
補助金ありきで計画を立てると、採択後に「この設備を入れて、本当によかったのだろうか」と感じる結果になりかねません。
支援機関を選ぶときの5つのチェックポイント
補助金の申請を支援する機関は多数あります。
コンサルタント、中小企業診断士、税理士、商工会議所など、さまざまな選択肢があります。
支援機関を選ぶ際には、以下の5つのポイントを確認することをおすすめします。
チェックポイント① 成功報酬の料率だけで比較しない
補助金申請の支援サービスでは、採択された場合に補助金額の一定割合を報酬として受け取る「成功報酬型」が一般的です。
成功報酬の料率が低いほど費用負担が少なくなりますが、料率だけで選ぶのは危険です。
料率が高くても、採択後のフォローまでしっかりサポートしてくれる支援機関のほうが、最終的に事業にプラスになるケースは多くあります。
また、着手金の有無や、不採択時の対応なども含めて、トータルで比較することが大切です。
チェックポイント② 申請書作成の進め方を確認する
支援機関に依頼する前に、「申請書はどのように作成しますか?」と聞いてみてください。
理想的な支援機関は、次のような進め方をします。
- まず経営者にヒアリングを行い、事業のなりたい姿や投資の目的を丁寧に引き出す
- その内容をもとに事業計画の方向性を一緒に考える
- 計画書の内容を支援者と経営者が共に確認し、認識のズレがないか確認する
「情報をいただければ書類はこちらで作ります」とだけ言われる場合は、注意が必要です。
経営者が計画の中身を理解しないまま進んでしまうリスクがあります。
チェックポイント③ 採択後のフォロー体制を確認する
採択されてからの手続きは、申請よりも複雑になることがあります。
交付申請、事業の実施、実績報告、事業化報告——これらのプロセスで迷ったときに相談できる体制があるかどうかを、事前に確認しておくことが重要です。
「採択までのサポートは充実しているが、採択後は自分でやってください」という支援機関では、後々苦労することになりかねません。
チェックポイント④「必ず採択されます」という説明を鵜呑みにしない
補助金の採択は、最終的には審査機関が決定するものです。
どれほど優れた支援機関であっても、採択を「保証」することはできません。
「うちに頼めば必ず採択されます」と断言する支援機関には、注意が必要です。
採択率の実績を参考にすること自体は問題ありませんが、その数字がどのような条件のもとで算出されたものかを確認することが大切です。
採択されやすい補助金に絞って申請支援をしていれば、採択率は自然と高くなります。
チェックポイント⑤ 自社の事業を理解しようとしてくれるか
最も大切なのは、支援機関が「自社の事業を理解しようとしているか」という姿勢です。
補助金の申請書類は、自社の事業計画を文章にしたものです。
自社の強み・課題・投資の目的を深く理解していなければ、審査員に伝わる説得力のある計画書は書けません。
「どのような事業をされていますか?」「その投資でどんな課題を解決したいですか?」——こうした質問を丁寧にしてくれる支援機関は、信頼できるパートナーとなる可能性が高いと言えます。
経営者が必ず自分で関わるべきこと
補助金の申請を支援機関に依頼することは決して悪いことではありません。
しかし、経営者として必ず自分でやるべきことがあります。
事業の方向性と投資の目的を自分の言葉で語れるようにする
支援機関に依頼する前に、次の問いに自分の言葉で答えられるように整理しておいてください。
- なぜこの投資が必要なのか(現状の課題は何か)
- この投資で何を変えたいのか(期待する効果は何か)
- この投資をすることで、3年後の事業はどうなっていたいか
これらの問いに答えられるようになることで、支援機関とのやりとりも深まりますし、採択後の実績報告でも「計画どおりの取り組みができた」と説明しやすくなります。
数字の根拠を把握しておく
事業計画書には、売上や利益の見通し、投資対効果に関する数字が含まれます。
これらの数字の根拠を、経営者自身が理解していることが重要です。
「支援機関が書いた数字だからわからない」では、採択後の実績報告や、行政からの確認に対応できません。
数字の根拠となる資料(過去の売上データ、見積書、業界データなど)は、経営者が把握・管理するようにしましょう。
補助金の対象経費と実施スケジュールを確認する
補助金には、「補助の対象となる経費」と「対象とならない経費」が明確に定められています。
また、事業を実施できる期間(事業実施期間)も補助金ごとに定まっており、期間内に設備の発注・導入・支払いを完了させる必要があります。
これらを経営者が理解していないと、「この経費は補助の対象外だった」「スケジュールに間に合わなかった」というトラブルの原因になります。
支援機関に任せながらも、補助対象経費とスケジュールは自分でも把握しておくことを強くおすすめします。
補助金申請は「伴走」であるべき
理想的な補助金支援の形は、「丸投げ」でも「全部自分でやる」でもなく、支援機関と経営者が一緒に考えながら進める「伴走型」です。
具体的には、次のような進め方が理想的です。
ステップ1:事業のなりたい姿を整理する(経営者主体)
「この投資で何を実現したいのか」を経営者が自分の言葉で整理します。
支援機関はこの整理をサポートする役割を担います。
ステップ2:補助金の適合性を確認する(支援機関の専門知識を活用)
事業の方向性が明確になったら、それに合った補助金があるかどうかを支援機関と一緒に検討します。
「補助金に合わせて事業を変える」のではなく、「事業に合う補助金を探す」順番が大切です。
ステップ3:事業計画書を一緒に作り込む(経営者と支援機関の共同作業)
事業計画書は、経営者の言葉と思いをベースに、支援機関が文章化・整理する形で作成を進めていきます。
完成した計画書は経営者が内容を把握し、自分の言葉で説明できる状態にしておきます。
ステップ4:採択後の手続きも並走する(支援機関のサポート継続)
実績報告や事業化報告まで、支援機関がサポートし続ける体制があることが理想です。
「採択まで」で関係が終わるのではなく、「事業が軌道に乗るまで」を一緒に考えてくれるパートナーを選ぶことが大切です。
まとめ ― 補助金申請は「伴走」で進めることが成功への近道
本記事のポイントを整理します。
- 補助金申請の「丸投げ」は、採択後にトラブルが起きやすい
- リスクは「計画内容を理解していない」「実績報告で整合性が取れない」「補助金ありきの計画になる」の3つ
- 支援機関を選ぶ際は、料率だけでなく、申請の進め方・採択後フォロー・自社事業への理解度を確認する
- 経営者は「事業の方向性と投資目的」「数字の根拠」「補助対象経費とスケジュール」を自分で把握する
- 理想の補助金支援は、経営者と支援機関が一緒に考える「伴走型」
当事務所では、「補助金ありき」の申請支援は行っていません。
まず「事業のなりたい姿」を経営者と一緒に整理したうえで、それを実現するための手段として補助金が有効かどうかを判断し、申請から採択後のフォローまで一貫してサポートするのが当事務所のスタンスです。
「補助金を活用したいが、何から始めればよいかわからない」「以前の申請で苦労した経験がある」という方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
- Q補助金の申請はすべて自分でやらなければいけませんか?
- A
いいえ、支援機関に依頼すること自体は問題ありません。ただし、事業の方向性・投資の目的・数字の根拠は経営者自身が把握しておく必要があります。支援機関はその整理をサポートする役割と考えてください。
- Q採択後の実績報告はどのくらい大変ですか?
- A
補助金の種類や規模によって異なりますが、見積書・発注書・請求書・納品書・支払いを証明する書類(通帳の写しなど)を一式そろえ、申請内容と実態が一致していることを証明する作業が必要です。事前に対象経費と必要書類を把握しておくことで、負担を大幅に減らせます。
- Q採択率が高い支援機関を選べばよいですか?
- A
採択率は参考の一つにはなりますが、それだけで選ぶのは危険です。採択率の算出方法・対象補助金・案件の範囲によって数字が変わります。それよりも「自社の事業を理解しようとしているか」「採択後もフォローしてもらえるか」を重視することをおすすめします。
- Q補助金の申請書類に書いた内容と、実際の取り組みが多少違っても問題ありませんか?
- A
大きなずれは問題になる可能性があります。事業の実施期間内に軽微な変更が生じた場合は、事前に変更申請を行う手続きがあります。計画と実態がどれくらい違うと問題になるかは補助金の種類によって異なりますので、気になる点は早めに支援機関や所管機関に相談してください。
- Q補助金を断られたケースはありますか?支援機関として「この案件は無理」と言ってくれる場合もあるのでしょうか?
- A
はい、あります。当事務所では、補助金の活用が経営的に適切でないと判断した場合や、事業計画として実現可能性が低いと感じた場合は、その旨を率直にお伝えしています。補助金はあくまで事業のなりたい姿を実現するための手段ですので、補助金ありきの申請支援は行っておりません。
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