PMIにおける財務・業務プロセス統合――資金繰りとシステムの整備

この記事のポイント

  • PMIの初期段階では財務と業務の安定化が最優先課題
  • 資金繰り表を整備し、財務の透明化を図ることで経営判断を迅速にできる
  • 業務フローを棚卸しし、属人化・二重作業を解消することで効率化と安定を実現
  • システムやツールの統合は段階的に進め、現場の混乱を防ぐことが重要

なぜ財務・業務の統合がPMIで重要なのか

事業承継やM&A後、経営が不安定になる原因の多くは「数字が見えない」「業務が回らない」という2点に集約されます。

  1. 財務面の不透明さ
    • 承継直後は「実際に使える現金がいくらあるのか」「借入の返済計画はどうなっているのか」が不明確なことが多いです。
    • 特に中小企業では、経営者本人が頭の中で資金繰りを管理しており、数値として残っていないケースも珍しくありません。
  2. 業務面の混乱
    • 経営者交代に伴い、口頭で行っていた引き継ぎが曖昧になり、担当者が混乱します。
    • さらに「旧来のやり方」と「新経営者の方針」が混在し、二重作業や非効率が発生しやすいのです。

この2つを放置すれば、承継後の経営は軌道に乗る前に停滞し、最悪の場合は信用低下や資金ショートにつながります。したがって、PMI初期の重点課題は財務と業務の統合にあるといえます。

財務統合の具体的手順

1. 現状把握と資金繰り表の作成

まずは資金繰りの全体像を把握することが最優先です。

  • 銀行口座の残高を確認し、運転資金の余力をチェック
  • 借入残高、返済スケジュールを整理
  • 売掛金・買掛金の入出金タイミング(回収サイトと支払サイト)を確認

これらを基に、最低でも6か月先、できれば1年間の資金繰り表を作成します。これにより「いつ資金が不足するか」「どこで調達が必要か」が見える化され、経営判断の土台となります。

2. 財務の透明化と共有

資金繰りや財務データを社長だけが把握している状態はリスクです。幹部社員や経理担当と共有することで、現場の意思決定スピードが上がり、責任感も生まれます。
「数字は社長の専有物ではなく、会社全体で守るもの」という姿勢を持たせることが、統合後の組織安定につながります。

3. 銀行との関係再構築

承継後は金融機関も新経営者の手腕を見ています。資金繰り表や今後の計画を定期的に示すことで信頼を高め、円滑な融資交渉につなげることができます。特に事業承継補助金や制度融資を活用する場合、銀行との協力関係は不可欠です。

業務プロセス統合の具体的手順

1. 業務フローの棚卸し

まず、どのように仕事が進んでいるのかを図解します。

  • 受注 → 製造 → 納品 → 請求 → 入金
  • 発注 → 仕入 → 検品 → 支払

といった流れを可視化し、担当者ごとの役割を明確にします。これを行うだけでも「ここが属人化している」「この確認作業は重複している」といった課題が見えてきます。

2. 二重作業・属人化の解消

承継後に特に多いのが「旧経営者方式」と「新方式」の併存です。たとえば、紙の台帳とExcelを同時に使い続けていたり、承認ルートが二重になっていたりするケースです。これを早期に整理し、「どの方法を正式ルールとするか」を決めることで効率化が進みます。

3. システムの整理と統合

業務システムは、一度に入れ替えると現場が混乱します。例えば、会計ソフトや販売管理システムを刷新する場合は、並行稼働期間を設けて段階的に移行するのが現実的です。小規模事業者であれば、クラウドサービスを導入して柔軟に運用するのも有効です。

4. 定期的な業務レビュー

統合後も「これで終わり」ではありません。3か月ごとに業務プロセスを振り返り、改善余地を探る仕組みを持つことで、持続的な効率化が可能になります。レビューは社内だけでなく、必要に応じて専門家にチェックしてもらうのも効果的です。るはずです。

実務現場での工夫例

  • 小売業の事例:承継後、在庫管理が属人化していたため、Excelからクラウドシステムへ移行。棚卸しが自動化され、欠品・過剰在庫が減少。
  • 製造業の事例:受注から請求までのフローを可視化し、チェック工程を削減。納期遅延が減り、現場負担が軽減。
  • サービス業の事例:資金繰り表を毎月作成して幹部と共有。コスト削減アイデアが現場から出るようになり、財務意識が浸透。

PMIチェックリスト(財務・業務統合編)

□資金繰り表を作成し、半年~1年先の見通しを立てているか?
□財務データを幹部社員と共有しているか?
□金融機関に新体制の計画を伝えているか?
□業務フローを図解し、属人化を解消しているか?
□二重作業や非効率な手順を整理したか?
□システム統合を段階的に進めているか?
□定期的に業務レビューを実施しているか?

まとめ

PMIの財務・業務統合は、承継後の安定に直結する最重要課題です。

  • 財務では資金繰り表の整備と透明化、銀行との関係再構築
  • 業務ではフローの棚卸し、二重作業の排除、システムの段階的統合
  • 定期的なレビューと改善で持続的な効率化

これらを計画的に実行することで、短期的な安定と長期的な成長基盤を同時に確立できます。

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